ルドルフ | ナノ


船の中はかなり快適だった。海独特の魔物が時折顔を出していたが、襲いかかることもなく、船は進む。船に乗っている間に髪をサメラは銀の髪を赤に染めて、船旅の直前に購入したローブをかぶり、作っておいた変装をしつつ、大刀よりもはるかに火力は落ちるが、仕方ない。と思いつつボウガンを下げてファブールの地を踏んだ。ラルフとして動くために身支度をして、二人は東に向かう。
何度か、この道も通ったが海から吹く風が身を裂くように冷たく痛い。足元で必死に歩いているプロムを見て、ペースを考えればダムシアンへの道も案外遠くない、と判断して山頂を仰ぎ見る。
ちらりと見えた青い影に、一年前の光景が思い出す。あのときは小さなリディアをつれて走ろうとか考えていたが、突如聞こえる人の咆哮にラルフは目を向く。

「ラルフさん!」
「いくぞ、プロム」

プロムを抱えあげて、サメラは山頂まで駆け足で登る。大きな岩を蹴りあげて、空に浮かべばそこは大きなボムの種と向かい合い傷を負い倒れたモンク僧を庇う僧が牽制をしているモンク僧がいた。怪我を負い動くのも困難そうに見える。一見した戦場は驚くほど無理なのは明白だった。
ラルフはわかっているな。と言えば、耳元ではい!と返事が聞こえたので、ラルフは迷わずプロムを空に放って、地に降りて、モンク僧とボムの間に下りる。

「無事か!」
「私よりも隣の奴が!」
「ハイポーション渡すから飲ませてやれ、時間を稼ぐ。隙を見て、ファブールに逃げろ」
「私たちはファブール王に火急の用立ちが」
「なら、早く行け。そいつは治療しておく。」

つべこべ言うな。とラルフが一喝すると、若いモンク僧は大きな声を出してダムシアンへと走り出した。山越えはあるが、この山よりも低く、距離はあれど、推測上は急ぎなら時間はそこまで、かからないだろう。やつらが来るまでに、かたをつけなければならない。そう思うだけでも胃がキリキリ締め付けているようだった。会うのは気が重いな。と一人ぼやきなから、ボウガンと冷気を纏わせるアイテムを漁る。

「プロム。わかってるな」
「はい!」

二人の旅の根本はプロムのラーニングの取得が主だっている。
ラーニング、それは青魔法を極めるための手段で、あり唯一の方法。魔物の能力を喰らい、その力を使う。が故に、使い手の数はほぼいない。ミシディアではプロムただ一人。師もいないからこそミシディアからの外出も長老から禁止されていた。と言う。
技を食らえば傷を負い、一歩間違えば命を落とす可能性も持っているからこそ、ミシディアの長ミンウはプロムに厳しくしつけていたのだろう。だから、パロムとポロムの旅を羨んでいたのかもしれない。なんともややこしいやつらだと、想いながらもラルフは、ギリッと眼前のボム種を見つめる。

「仕方ない。死合おう。」

音もなくボウガンを放てば、ボムはひらりとかわすために身をよじる。その隙をついて、プロムがロッドを振り上げて呪文の真言を唱える。風を起こす鳥類の能力を取り入れて、小さな竜巻をボムにぶつける。反転し、攻撃を繰り出そうとした瞬間に威嚇目的でボウガンをぶっ放す。小気味よい音を立ててから地面を縫うように刺さりながらも、数本はボムに刺さる。これだから、弓矢は嫌いなんだと小さくつぶやきながら、ラルフは距離を大きく距離を開けて、プロムの名前を呼ぶ。

「一旦時間を稼ぐ、後のモンクを頼む。」
「わかりました!!」

ボムのそれは右手を大きく上げて、振りかざそうとするのでラルフは遠慮なく空いた場所にボウガンを打ち込む。無形のボムはそれをやんわり吸い取って何もなかったかのように矢を燃やして煙を吐く。ラルフは舌打ちをして、振り下ろされる腕を避け煙に近いボムの体を蹴り飛ばす。が、空をきり、煙をかきまぜるだけであった。
きちんとした武器さえあれば。と思いながら、じりじりとボムと距離を詰められる。このまま逃げれば後ろのプロム達に攻撃がいく。耐えるしかないか。大きく息を吐き出して、来るべき攻撃に備えて構える。こんなところで大きな魔物に出会うとは、自分の悪運に笑ってやると背後から奇声が聞こえて、頭上から人の気配が飛んでくる。と同時に眼前のボムに矢が刺さる。氷を纏っているのかなかなか飲み込まれずボムを蝕んでいるようにも見える。

「無事か?」

そんな声を聴くのは久々であった。銀の噛みと血色の無い月のような男。セシル・ハーヴィとその御一行だった。
到着、はやすぎないか?とひとり呟いたが、その音は誰の耳にも届かなかった。


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