ぼくはお断りします。 





天気もいいからと音楽プレイヤーでクラシックを聴いて屋上太陽の光を浴びながらでうとうとしていると、ぽつぽつと雨が降ってきた。このまま寝ててもいいけれど、人形遣いが五月蝿そうなので、仕方ないが手芸部にでも移動するか、なんて考えた。梅雨の時期は天気が変わりやすくていやだ。太陽も出てこないし、動きやすいっちゃやすいけど。雨で動くのがだるいなぁ。と思いつつ校内に入ると、廊下の向こう側から朔間さんが歩いてくるのが見えた。書類上親戚、事実上双子の弟に当たるややこしい関係を持つ朔間さん、まぁ向こうの家の子どもたちの朔間兄弟はそれを知っているかは定かでないし、ぼくも面倒あので、養子?へーあっそ。のスタンスで生きているので、お互いに深く関わってない。人形遣いが五奇人と呼ばれてたから、それの付き合いで揃いの衣装をもらったりだとかしたぐらいで。そこまで付き合いが深いわけでもない。というか、なんだ。あれだ。ぼくが人付き合い苦手なので、ほったらかしにしてる部分はある。うん。そんな朔間さんは珍しく眼鏡をかけている、あのフレームはクラスメイトのやつじゃないか?とかおもうけど、口だす権利はないので、黙っておくことにする。いや、話が脱線した。話を戻そう。彼は朔間の一族の中心で、ぼくはその一族の末端の末端なので、逆らえる立場でもなんでもない。ぼくは猫ではないのだから。まぁ朔間さんは時おり僕を心配して構うが、放っておいてほしい。ぼくはそういうのが嫌いで親族関連のことも比較的逃げているのだから。血だって嫌いだし、サプリメントでなんとかしてるぐらいなのに。たぶん、サプリメントを飲まなくても死なないだろうし、死んだらそれまで。と思っているので、知らない。そっとしてほしいのに、朔間さんはぼくを見つけた風に片手をあげて、にこやかな人望のありそうな笑顔を浮かべている。

「央くんや、久し振りじゃのう」
「お久しぶりです。」
「相変わらず、央くんは表情筋が固いのではないか?。」

ほら笑ってみぬか。と朔間さんは自分の顔を笑顔にして、ぼくにスマイルをねだる。ぼくは今は仕事中じゃないので、笑いませんよ。と適当に相槌を打つ。喋るのも厄介だな、とか失礼な事をおもいつつ、話を反らすために、朔間さんは寝なくていいんですか?と社交辞令を舌に載せる。そのまま誰か来てくれたら、話もそっちに押し付けれるのにと思っている時に限って誰も来ない。みかも、来ないことにちょっと心の中でやつあたり。あとでみかの飴でも食べてやろう。とか小さな事を思う。

「そういえば、央くんは最近、楽器の方はどうじゃ?」
「こんどのライブ用に依頼は来てますよ。朔間さんのところ用に楽譜は。」

まだ手をつけてませんが、明日ぐらいにでも始めるつもりです。そう伝えれば、我輩も見学したい。と言い出す。丁寧にご遠慮します。と返せば、つれないのう。じゃあぼくはこの辺で失礼します。と横をすり抜けようとしたら、がしっとぼくの腕を掴む。……離してもらえないですかね。と問いかければ、朔間さんはにっこり笑って嫌じゃ。と一つ。いやいや、作業場にほかの音は要らないんです。欲しくない。昔から録音も仮歌もいつだって一人で録音してきた。そこに誰かをいれるつもりはないし、入れたくはない。誰かが入ればノイズが入る。ノイズが入れば歪みが生まれる。歪みは、世界の崩落さえもある。そう、歪みは、イレギュラーは全て排除したい。そう、イレギュラーさえなければぼくらは完璧に世界が出来上がる。イレギュラーは排除するべきだ。そのためには話を反らして、逃げねば。

「見学させてくれぬ限り、腕は離さんよ。」
「どうせ、暇だから遊んでくれ。の間違いじゃないんですか。魔王様。」
「老いぼれにそんな名前は似合わぬの。」

たのしいおもちゃを見つけたように赤色の瞳が細められる。どうやって交わすかと画策してると、遠くから人の声が一つ。俺は、ほら、お宅のところのお犬様が遠くから吸血鬼野郎だなんて、言ってますよ。慕われてますね。と笑ってやれば、まったく煩い犬じゃのう。と朔間さんは呆れている。仲良きことはいいこといいこと。とクツクツ笑ってやれば、朔間さんは逃げるかの。と俺の横を通っていった。去り行くときに、「またの機会にでも聞かせてもらおうかの。録音の時にでもまた頼むわい。」何て言うからぼくは最大級のスマイルを一つ。それから。
「お断りします。」とキッパリ突っぱねる。三奇人でも生徒会でもぼくの世界に邪魔はさせるつもりはない。



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