ぼくとリアクト マジカルハロウィン 1 






最近、凛月さんの様子がおかしいから様子を見ておくように。と家の連絡用ボードに書いてあった。…本家の覚えをめでたくするため、という話だが。ぼくを引き取った時点である程度おめでたいことになっている…はずもないですかん。そうですね。畜生腹だとかなんだとかいう血族でしたものね。はいはい。
朔間さんの目を盗んで監視だなんて高等な技能なんて持ち合わせてません。とりあえず学校に行ってから考えましょうか。末弟の調子は本来はぼくが見る仕事なんだろうか。考えても仕方ないのでとりあえず学校に到着して寝てから考えましょう。そういうわけで、ぼくはいつものように手芸部に入る。

「入りますよ。人形遣い。」
「ふん…外はぴいちくぱあちく、喧しいね。これだから年中行事は嫌いなのだよ。無意味に誰もが浮き足立つ。」
「いいじゃないですか。イレギュラーがあってこそ販売でしょうに。」

毎日同じでは面白味はないんですよ。
伝えれば人形遣いは鼻を鳴らして俗物どもめ。なんて言ってますけど、その俗物からおまんまの種をもらってるんでしょうに。やれやれと首を振れど、彼は納得しないのでぼくは息を吐き出してからお嬢さんとご挨拶もしておくのを忘れない。

『宗く〜ん、賑やかなのが嫌なら何で休日なのに登校してきたのよ。本当にもう何をするにしても文句ばっかりね。あたしは宗くんをそんな子に育てた覚えはないわよ』
「仕方ないだろう、マドモアゼル。お小言は勘弁しておくれ。愛してるから。【ハロウィンパーティ】には無数の『ユニット』が参加するし、来客すら仮装する。」
「お蔭でぼくのアルバイトはかなり潤ってますけれどね。」

【S1】が始まるたびに大御所古豪有名どころは新しい楽曲を求めたがる。仮歌。録音演奏となれば一挙にぼくのところに押し寄せてくるので、僕にとっては嬉しい悲鳴ですが、電子のものはいまだに怖い。いや、きちんと動作確認を行ってしまうから時間がかなりかかるぐらいなのだけれども。ぼくがきみたちの活動費を稼いでるのですよ。なんて遠まわしに主張すれば、衣装がね!と人形遣いが反論してくる。

「衣装手伝いましょうか?」
「ノン!小鳥が手伝うと衣装が血まみれになるっ、それはならん!」
「…残念。では自分の分でも繕いましょうかねぇ。」
「小鳥は奏でるのが仕事であろう?手芸部は人数集めで入った数だけの要員だ。」
「そうでしたね。」

くすくす笑ってぼくは自分の寝床に腰を据える、話がそれてしまいましたが、なんでしたっけ?と人形遣いに問いかける。あぁそうだった。なんて言わんばかりに思い出したような口調で、鬼龍や外注スタッフもろもろ総動員しても手が足りてないようでね僕まで駆り出されたというわけだよ。『Valkyrie』の活動資金を稼ぐいい機会でもあるしね。むろん、君はいらないからね。大きい目の釘をさしこまれ、ぼくは寝る気もそがれる。お嬢さんと人形遣いのやり取りを聞きながら、本来の登校してきた目的を思い出して、しかたないので軽音部に行ってくると告げてぼくは部屋を出る。
朔間さんを相手取って情報を引き抜く事を思えば胃が重たくて仕方ない。日の光は好きだけれど、浴びればぼくだって疲れて眠ってしまうのだ。それだけうちの一族。というのは日の光に弱い。それに対して、血のつながりでは弟にあたる朔間さんや凛月さんは僕以上に弱いのだ。科たる以上に複雑な一族の朔間からはずされたぼくがどうしてこう動かねばならないのか考えながらも重たい足を動かす。向こうは僕のことをどう考えてるかなんて知らないけれども、極力見つかってつつかれて藪蛇なんてならないように気をつけねばならない。そう考えながら、ぼくはさっさと用事を済ませたい気持ちを抑えつつ、軽音部のドアを叩こうと思っていた。ドアの向こう側から話声がする。
朔間さんの声だ。どうも電話をしているのか、朔間さん以外の気配があるのに話し声が聞こえない。出直すかとも考えてたら、目の前のドアが音をたてて開いた。朔間さんのところの子がぼくを睨む。

「朔間さんに晦が来たと伝えていただければいいですよ。内容は見たまま報告するので。」
「そういえば、おめぇもあの一族だったよなぁ?」
「おやおや、躾のできてないお犬様だことで。」
「誰が犬だ俺様は誇り高い狼だ!」

狼は人語を介しませんよ。その時点で人狼であり、人外ですね。
ぼくは言葉遊びのつもりで言っていたのだが、むこうは本気で真に受けたようだ。あらら、なんて優良に構えていると、丁度電話の終えた朔間さんが彼を呼びとめた。

「晦くんではないか。にぎやかだと思ったわい。」
「家からの指示ですので、情報が落ちていればと思ってまいりました。」
「毎回そうやって素直に言いに来るのもいかがなものかの」
「嘘を吐くと、後々ややこしいですからね。今回の目的は末弟君のほうですがね。朔間さんが何か握っているといいなと思ってまいったのですが。」

朔間さんがあの子の?と首を傾げるので、ここに情報がないことを悟る。本人を中ろうにもきっとこの時間では、難しいだろう。ユニット側から探ってもいいのだろうけれども、あそこは排他的な気質も持ち合わしていたはずだ。日を改めますかとも考えながら、与太話を展開していく。どうしてうちの者がそういう情報を持ってるのかわかりかねますが、朔間さんも持ってないのでしたら、ご迷惑をおかけしました。家にもそうやって報告しておくので気になさらず。
それでは。と頭を下げて退室するために頭を下げる。

「晦くんや。情報が詰まったら我輩のところにくるとよい。」
「集まれば、ですね?」

つまり。情報が集まるまで来るなということですね。暗にそういっているのだろうと解釈して、ぼくはわかりましたよ。と返事だけをして、これでおわりあと判断する。練習中のお時間にすいませんでした。と一言詫びてからぼくは部屋を出る。家に帰ればそういわれた。と言えば、これ以上の追及も家からはないだろうなんて判断する。今日の睡眠時間を確保できてないので今から部室に戻って休憩するかと思い、手芸部の部室に再び向く。




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