ぼくとスカウト エキセントリック 4e 





10分とか思ってたら電話は5分で切れた。言いたいことだけ言ってスッキリ出来たのだろうか。知らないけど。きちんと電話が切れてるのを確認してから、店内に戻ると朔間さんが一年前に戻っていた

「央くん、どうじゃ。」
「どういう経緯でこうなったかまったく想像が出来ません。」
「つれないのう。同じ色を持っておるのに。」
「親戚ならだいたい似た色はもつでしょうよ。」

呆れつつ席に座る。やれやれと首をふると、人形遣いが口調も戻せと言う。愛すべき悪癖が調子に乗り出してるのを見ながら、ぼくはふっと息を吐く。朔間さんはどんなしゃべり方をしていたかのう。と考え込むので、ぼくあそんな光景を見ながら、状況を伺う。電話の間にどうしてこうなった?と首を傾げていると、人形遣いが教えてくれた。そうですか、なるほど。

「ヘイヘイ、俺っちは朔間零ちゃん、今日もパンクでロックに盛り上がってるかいアミーゴ!」
「えっ、そんなんじゃった?我輩、そんなんじゃった?央くんや」
「え、ぼくに振られても困るんですけど。」
「我輩のお手本を見せてほしいのじゃが」

あなたのお手本はあなた自身なんですから、要らないでしょうに。ただでさえ同じ顔をしているのですから、見つかったらややこしいです。という言葉は喉まで出掛けたが、すんでのところで飲み込んだ。いいかけた言葉をごまかそうとしてると、渉が笑いながら朔間さんにキャラ付けを追加していくので、朔間さんは諦めたように、昔のような口ぶりで確認を行っていく。そんな行動を見てか、奏汰が疑問投げると、それは忘れたでしょう?と言い聞かせる。そうですか、朔間さんの忘れたい話は終わってしまったんですね。いいですけど。ぼくに関連しなければ。忘れるもなにも奏汰は知らないという。当時から興味をもっておけばと後悔する奏汰に朔間さんは今からでも遅くねーよ。と云いつつ恥ずかしさで顔を覆いだしてしまいそうだ。これほど慌てる姿を見るのも珍しいので、ぼくはそのあま楽しいと重いながら笑っておく。

「うう、あんまり調子こいてんじゃね〜ぞ。央、テメェも笑ってね〜で話をしろっ!」
「あぁ、そうですね。じゃあ僕の話でもしましょうかね。」

色々考えましたけど、一番は『Valkyrie 』結成当初から、いいえもっと正確には学院の入学時から小鳥。と呼ばれてる由縁を忘れてほしい感じですかね。いつまでも囀ずってばかりいられませんし。あの頃はもっと囀ずってましたし……今見ると独特の空気感はありますけど、所謂中二病ですからねぇ。そろそろ4年過ぎますしピーチクパーチク言ってれませんから。
そう口を開くと、今でもたまに囀ずっているだろう。と人形遣いが言うので、靴……ヒールで踏んでおく。ぐっと人形遣いが表情を歪めたが、先ほどの作曲についての恨みもあったので、念入りに力を入れる。

「央は昔と変わりましたね。」
「本質は変わらないかも知れませんがね。言葉は減らすように心がけてます。」
「その分肉体言語が増えた。」
「煩いですよ、人形遣い。」

お前は黙ってろ。と言わんばかりに人形遣いの足を踏みつける。今日は普通のレザー靴なので、硬く平たいヒールでよかったですね。と微笑んでおく。ユニット衣装でハイヒールを履くことも多いのだが、おそらくそうだったら人形遣いの足に穴があいてのではないか。と思うぐらいに踏んで微笑む「口は災いの元だと覚えましょう。人形遣い。人の口に戸もたてられませんからね。」と笑みを深めれば「わかっている。」と人形遣いが苦虫を潰したように表情を変える。ぼくはそれでもあとで話をしましょうね。と足して足を離す。

「痛いではないか。」
「痛くしてますから。当社比120パーセント。」
「貴様は……」

ぎりりと睨まれたがぼくはどこ吹く風で、知らぬ降り。きみにが先にしたんですからね。といえば彼は黙ってしまった。なにのことですか?と渉が問いかけてくるので、ユニットの問題です。と触れさせないようにしておいたのだが、「我々も宗から歌を聞いて知ってはいるんですがね。」と言うので、じゃあそれも忘れてください。と付け足せば、朔間さんが意地悪そうに笑って、なんのことだぁ?と仰々しく聞いてくるし、言いたくもないので、知らないなら魔法は効きませんからね。と投げておくことにした。

「まぁこうして茶化しあったい、馬鹿みたいなことで盛り上がったりしていると、本当に当時に戻ったかのように錯覚するよ。これもまた僕らの青春だった。」

本当に時間が戻れて、同じ時間を繰り返したいぐらいだとそして、その先にどんな絶望が待っていても繰り返したいと人形遣いはいう。過去は戻れないから美しく、そして甘美な劇物になる。風化して綺麗なことだけを覚えていくから崇高化する。神格化していくのだ。ぼくと人形遣いは芸術的な話でいうと、似ている。ただしベクトルが違う。捻れて互いに交わることなく続いている。どこか被さっていたら、きっと崩壊していただろうと思う。お嬢さんの声を聞いていると、夏目くんが大きく揺れて人形遣いの肩に頭を寄せた。

「おや?」
「さっきから『しずか』だと思ったら、なっちゃんねちゃってますね。」
「はしゃいでましたしね〜。つかれちゃったんでしょうか。」
「あの……夏目くん。最近大忙しで、ユニットも本格的に活動してますし、副業も動いてたみたいですし手伝ってるんですけど、大変そうで……」

調整役が、申し訳なさそうに言葉を発する。くろうしてるなら手助けするのに。と言うが、昨年のあの時期に遠ざけたことを根に持っているのではないかとぼくは思うのだけれども、口には出さない。弟というものは、兄に反逆したいものでもあるのを知っているし、下には下のプライドがあるのをぼくはよく見ている。目の前の朔間さんのところだけれども。というか、ここの場合は本当に血の繋がった兄弟だからこそなのかもしれないが。まぁそういうものだろう。ぼくは夏目くんでもないから真意は知らないし、『五奇人』でもないのでとやかく言うつもりもないので、奇人たちの会話を聞き流す。

「央や夏目がそれを望むなら、俺らは世界を相手に戦争だってしてやるのにさ。かわいいかわいい、俺たち『五奇人』の末息子ちゃん。」
「ぼくは入れなくて構いませんよ。朔間さん。」
「俺もお前も運命共同体みて〜なもんだろうがよぅ。……『五奇人』と『一隠』の関係は血と同じぐらい濃いもんだって〜の。」

間違いなく彼も知っているな。とぼくは直感する。大人たちの事情の暗黙の了解。朔間本宅からの指示で学校も決められてたけれど、たぶん朔間さんからの指示だと今更ながらに直感と理解する。もしかするとこの人は大人たちの目を忍んでぼくに接触を図ろうとしていたのではないか、とも勘ぐってしまう。ぼくは、お断りします。と丁寧に返事しておく。ただでさえごたごたしている我が一族の問題に触れるのは心から折れていくようなものだ。

「でも、ほんとに困ったら言えよ。央。」
「遠い将来で太陽に焼かれるようになったら考えます。」
「なっちゃんも、『おねんね』してますし、まずはこの『おみせ』の『おしごと』をてつだいましょう」

『うらない』とかするんでしたよね。そのていどしかできませんけど。すこしでもなっちゃんの『たすけ』になれたら『うれしい』です。占いなら!と渉が手を上げる。では僕は店内の掃除をしよう。小娘は料理などをたのむ。零は給仕を。と人形遣いが声を発する。奏汰がぼくはなにをしましょう?と首を傾げるので、ぼくと一緒に音を奏でましょうか。そう提案すると、お主楽器は持ち合わせてないと言ってなかったか?朔間さんに訝しげな目で見られたが、楽器ならたくさんありますよ?ハンドフルート、ボディパーカッション、フィンガーホイッスル。手拍子、と指折り数えていくとお主はどこまでマスターしておるんじゃと呆れられた。幼少期暇だったので、覚えただけですよ。音しか遊ぶものが無かった。なんてざらでしたし。あの頃と手のサイズやいろいろ変わってますから、音程は怪しいですけどね。ここで聞かせる分には事足りるでしょう。

「奏汰、歌ってくれますか?」
「お主の歌声は人間を誘い込む魔力を秘めておるからの。慌ただしい年の瀬に疲労した人々に一時の安らぎを与えておくれ。」
「はあい、じゃあうたいますね。央もよければ『ごいっしょ』に〜」
「ハンドフルートだからなぁ。できる限りね。」

四つ打ちと適当に吹きならしてくから、好きにやっていくといいですよ。併せます。と伝えて、ぼくは椅子に腰かけて指を組む。奏汰の海のような音を思い浮かべながら、指の間に息を吹き掛け得た



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