ぼくとスカウト ヴィクトリア 1 





手芸部でうたた寝していると、気配が一つ消えてから賑やかな音がしていた。またヒステリックでも起こしてるのだろうと思いながらぼくはそのまま昼寝を決め込む。が気配が増えてたので寝ぼけ眼で起き上がると、夏目くんがそこにいた。挨拶もそぞろというか、片手だけあげてから再度眠りながら聞き耳たてる。夏目くんはどうも衣装の相談をしにきたようだ。が、まぁ人形遣いの調子は相も変わらず悪いので、拒否の声が部屋に響く。夏目くんも荒れてるのは承知のようで、物を投げないでよ。なんて忠告をしている。ぼくは、眠いので、そのまま寝てる。昨日はたっぷり寝たけど、やっぱりサプリメントがげろまずなので、ぼくの体力が持っていかれるのだ。あぁやだやだ。そうしてぼくは、減っている体力を回復させるために寝ているわけだが、さっきまで大人しかった部屋に夏目くんが入ったことにより賑やかさが増している。寝ようと思っていたのに眠れないではないか。
人を殺めそうな目だなんて言われるけど、いいの。眠たいだけですから。

「入室する前にノックぐらいしたまえ、また一から礼儀について教えてやらなくてはならないのかね?」
「ノックはされてたよ。人形遣いが聞こえてないだけと思うよ。」
「小鳥、寝てないのか?」

人形遣いがそうがなりたててるから目が覚めたよね。眠たくなったら寝るけど。そう伝えて、動きやすいように枕を床と胸の間に入れ込み上体だけを起こして頬杖をつく体制を作っている間にも、夏目くんはにいさんたちに何かを教われるなラ、どんなことでも大歓迎だけど央にいさんのいう通りノックはしたヨ。宗にいさんがそういうことに細かいのは弁えてるしネどったんばったん騒いでテ、宗にいさんがノックに気づかなかっただけだヨ。指摘が正確すぎて人形遣いが逆上する、もう被害妄想はいってないかい?っていうぐらいの逆上の仕方だ。やはり不安定だなぁ、とか感想を持つ。

「神経質なのは昔からだけド、あんまり些細なことで苛々してると寿命が縮むヨ?」
「長生きするつもりはないのだよ。」
「まぁたそういうこと君は言うよねぇ。人形遣い。」

何が悪い、僕の満足する芸術が行えた、と自覚できたならいつでも首に縄を巻き付けてどこかの樹木にぶら下がってあげよう。否、首吊りはあまり美しい死に様ではないね、轢死、毒死、感電死、どれも綺麗な果てかたとは言えない。無論老衰は偉大とされるが醜く枯れ果てるため却下だ。やはり氷漬けがと指折り数えているが、ぼくにはそういうつもりもないので、人形遣いにの好きにさせている。まぁ死ぬ前にある程度の死臭はかぎ分けれるので、この体質に感謝というか、死にかたに綺麗もへったくれもない。たぶん個人の考えでは酩酊中に一酸化炭素中毒が一番よいと思うが、そこまでいくのもしんどいらしい。死ぬというのはとても手間のかかることなので、一切ぼくは、救わないし救えない。

「アイディアがまとまってきた、何の用だかは知らないけれど少々ばかり待ちたまえ。」
「待つけどネ。死ぬ死ぬ言わないノ。央にいさんがただでさえ血色ないのに青白いを通り越えて、真っ白だヨ。」

言われて俺は窓のサッシで自分の顔色を確認する。確かに真っ白だなぁ。とか他人事のように思いながらも、まぁ昔から血だけは一切受け付けないので、ぼくはサプリメントで代用してるせいで血色がいいとか言われた記憶がないぐらいなので、これぐらいの真っ白なら問題ない。自分のなかで折り合いを着ける。視線をサッシから夏目くんに戻すと、今死んだら犬死だヨ。どうせなら勝って高笑いして絶頂の中で息絶えてほしいナ。とか物騒な事を言っている。そんな図面に似た構図は地下ライブでなんどか経験したがやりたくないものだよ。それ。でも、まぁ、夏目くんの言うような死に方なんてもう二度と出来ないだろう。ぼくたちは粛清されたのだから。

「よし、アイディアをまとめ終えたのだよ。しれでいったい何の用かね。小僧。衣装がどうとかいっていたのだけれど?」
「だんだん『Switch』の活動が増えて衣装の製作が追い付かなくなってきたからサ、ある程度は外注したいと思うんだけド」

ボクたちはあんま公式ドリフェスには参加しないシ、構内資金の持ち合わせがなくてネ。誰か知り合いにお安く頼めたら万々歳なんだヨ。でもその調子だト、宗にいさんに頼むのは酷かナァ。まだまだスランプ継続中っぽいネ。というか今日はいつになくひどい感じだネ、央にいさん。ぼくに振られても困るが、人形遣いのヒステリックはいつにもまして今日は強い。返事するのもだるいので頷く程度に止めておく。人形遣いが、君ごときに『正解!』と言ってやるのは癪だが、悔しいことにお察しの通りなのだよ。案は纏まらない指は動かない、辛うじて仕上げた衣装は気にくわないで散々だね。不甲斐ないよ、苛々ばかりが募り、思わず壁に当たるなどしていた。なんて言われたが、まぁ通りで賑やかだった訳だ。ガンガン音がなってたのを思い出しながら、一人でも賑やかな人形遣いの図を思い浮かべると実にコミカルにも思える。

「壁を壊しても世界は壊れないヨ。殴ったお手手が痛むだけ損だネ。」
「傷みをもって覚えるのが人間ですからねぇ。」
「承知しているよ、忌々しい。」

吐き捨てるような言葉を選ぶ人形遣いを見ながら、そういえば。とぼくは思い出して夏目くんに話を投げる。人形遣いに話を持ってくるのはいいですけれど、夏目くんのユニットには青葉くんがいるでしょうに。彼に頼まないのですか?彼も手芸部ですから、製作をお願いしないのですか?彼は人形遣いが珍しく認める人間ですよ?そう問いかければ、センパイは手が遅いんだよネ。むりするし、なんだかんだいいつつ夏目くんと青葉くんはいい関係性が保てているようだ。

「血染めでよければ作りますけど。」
「魔法に血を使うのは強力だけれど、央にいさんのは文字通り全部染まってるからネ。それは大丈夫だヨ。」

とてもそんな余裕はないみたイ?仕方ない、今後大忙しになりそうだから、なんてぶつぶつ呟きつつ調整役に話を振ってみるか。とかいやでも、とかぶつぶつ独り言のように呟く。その音を拾ったのは、人形遣いで、あの小娘なら鬼龍が師匠筋だし、彼女を通してそちらに頼むと言う手もあると思うのだよ。あの人『紅月』でショ。二人の打てば響く会話を聞きながら、うとうと微睡む。さっきまで絹を裂くかの如く怒っていたのが普通に話をしているのだから、気が紛れてきたのだろう。お嬢さんもみかが連れ出してるとか微睡むなかで言っていたような気もするし、安定するはずがない、と思ってたけれど、過去の仲間。というのは人形遣いにとって安定するものの一つなのだろうか。わからないけど。もうちょっとで夢の世界に入れる、なんて思っていると、電話の音がする。小娘、という単語がぼくの耳にも届いたので、どうやら電話の相手は調整役のようだ。

「数あわせのボクとちがっテ、にいさんは本物の『五奇人』だからネ。」
「ううん、きみも『五奇人』だよ、夏目くん。」
「買いかぶりすぎだよ、央にいさん。」

いいや、ぼくはそう思わないよ。ぼくは『五奇人』の候補に入ってたらしいけど、いかんせん人望やらそういうの全くもってがなかったから、一隠なんて名前の箱に入ってしまってる。だから、要素としては、君の方がぼくよりも彼らの方に似てるよ。まぁ生き写しがそこにいるから外されてるとは思うんだけどね。

「煽てても何も出ないよ。僕も、零も渉も奏太もひとりだって君を数あわせや『おまけ』のようには思っていないからね。」
「どうだカ。」
「親心ナントカ。ってやつじゃないのかな。ぼくは『五奇人』じゃないからわからないけどね。」

ところで夏目くんはどうしてぼくもにいさんと呼ぶんだい?ふと思い出した疑問を投げ掛ければ、はぐらかされた。不満を口に出すと、宗にいさんとよく一緒にいたからかな。なんて適当なこと言われた。問い詰めようとしたが、人形遣いがいきなり小娘!と声を荒らげた。緩慢な動きで人形遣いを見ると、ご立腹の様子だ。小娘のくせに一方的に言いたい事だけ言って通話を切った!どうしてそうなったのかぼくは教えてほしいのだが。夏目くんがそっと逆鱗に触れないように気を付けずにそのまま問いかけをしている。小娘というか影片が?思考するように手を当てて人形遣いは考えてから、口を開く。

「おそらく冗談だとは思うけれど、どうも影片が何者かに誘拐されてしまったらしい。」
「それは大変だ。」

あの子はお師さんがなにかあった。と言えばコロッとついていきそうだとは思っていたけれど、まさか本当についていくとは。想像するより事実は容易なり。カラカラぼくは笑えば、なにがおかしい!なんてかなり詰め寄られてなじられる。いや、構わないけど。落ち着いてつまびらかに事実確認をしよう。一つ一つ言葉を噛み合わせようではないか。
そう伝えると人形遣いは先程の電話の詳細を話し出した。ぼくは聞きながら、まぁ狂言だろう。と判断するのだけれど、どうも人形遣いは本気でとらえている様子で、一刻も争うと飛び出さん勢いで、仕方ないかと夏目くんを抱えてぼくの首根っこを掴んで人形遣いは手芸部の部室を飛び出した。どうでもいいけど、着くまで寝てていい?



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