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ライブ企画書を見て、登良は頭を抱えた。シナリオの都合上、暗転1分ほど暗転して各通路に分かれて踊るらしい。…この1分が問題である。通路が5本になっている以上、一人1通路で踊るだろう。となれば一人になるのは必然だ。どうやってここを超えるか。密室ではない、一人じゃない。そう考えれば前向きであるが、先日の体育館の一件があった以上どうなるかわからない。いざという前に、対策を打たねばならないだろう。登良がやると言った以上降りるわけにはいかない。そう思慮してると、目の前に急に手が差し出された。そうだ、書類の最中だったと思い出して顔を上げたら斑が登良を見てた。

「登良くん、悩みならお兄ちゃんに話してみてもいいんだぞ?」
「間に合ってるので大丈夫です。」

断ってから、再度前に置いてある書類に手を付け直す。斑は、ふむ。と思いながら、声を明るくするように努めてなずなさんにきいたぞお?体育倉庫で閉じ込められて気絶したと。そう声に出したら、登良の表情が少し曇った。見逃さない隙に斑はひょいと登良の首根っこを掴みあげて抱擁を一つ。登良は数度暴れたが叶わないと判断して大人しくなった。この弟はほんと猫のようだと思って斑はくつくつ笑ってから自分の膝の上に乗せた。どうした?と改めて問いかけたら、今度のライブで暗闇が演出で必要けれど、周りに誰もいない。だから、大丈夫かと考えてた。そう伝える。常日頃兄を嫌っている彼が、こう素直に相談されると思っても居なかったので、斑は笑って登良の頭をポンポンと撫でる。そんな対応が不満だったのか、登良は斑の腹にボディブローを一発決めてから口をとがらせている。どうやらいろいろと考えてる様子だが、どうもいい方向に進んでいないらしい。解決口を探すために声をかけてみる。思考の海に完全に沈んでいないらしく返事は帰ってきたので新たに投げてみる。

「暗いのは嫌いかな?」
「好きじゃない。反応のない闇は怖いよ。どうしていいか解らなくなる。声を上げても、誰も返事してくれない。」

そんなところで一人で踊ることになるのだから、どうすればいいか考えてる。そう登良が落す。斑は、ふと思い浮かんだ案は、確実に暗闇で一人だと言う事を実感することはないだろう。そう判断するのは、長年彼の兄をしてきたからこその、思考や性格を踏まえたうえでの答えだ。伊達に十数年彼の事を面倒見て着たりしているだけあってか、斑はこの答えに確信を持った。

「登良くんは、考えすぎだ。君の仲間は、『Ra*bits』だけかあ?」
「…どういうこと?…」

どうも、これだけでは察しにくいと判断して、斑は彼の耳元でその答えを囁いた。その答えを聞いた、思ってもいなかったのか登良は驚いたのか目を丸くした。その表情は一瞬で元に戻ったのだが、それでも珍しい表情が見れて斑は嬉しそうに目を細めて登良の頭を撫でる。…が忘れてはいけない、猫は暴れるものだと。登良は兄の反応が納得していなかったのか、驚いた表情を見られたのが恥ずかしかったのか、鳩尾にフック気味のパンチを一発食らわせて登良は部屋へと逃げ出した。兄は痛みでその場に崩れ落ちた。一番下である繊細な妹が、部屋の音を聞きつけたが登良の手筈によって見ることも許されず部屋へと返された。痛みが落ち着いた頃、今度のライブをコッソリ見に行くかと思考して、満足げに笑った。

「…にしても、登良くん。兄の俺にも容赦なく一発を食らわせてくれたなあ。さすが、紅朗さんの後輩だなあ。」

満足そうに二度三度頷いて、斑は自分の部屋に戻ることにした。



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