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全員が揃ってキャンプ場に入ると、佐賀美が点呼をとる。小さな鞄にクーラーボックスを抱えてるので、登良は中身は氷と酒だと思っている。そのとなりに立っている椚先生がにらみを効かせてるのでやっぱり酒だなと判断する。

「面倒だからって目視で済ませないでください。スラックスからシャツの裾がはみ出してますよ。」
「いつものことなんだから、ぐちぐち文句を言うなよ。」

せっかくエアコンの効いた保健室で寝てたのに、問答無用で起こして無理矢理ここまで引きずってきたのはあきやんだろ〜?あきやんってよばないでください。
二人のコントみたいなやり取りに、登良はクスクス笑っていると、三毛縞笑うな。と怒られた。キャンプ場でのルールについては渡したパンフレットに書いてある。規則を守って愉しい合宿にしろよ。なにか質問はあるか、質疑応答に入ると、魚は素手で採ってもいいとか、蛇が出るとか二三の質問を経て、テントを組み立てるように解散となった。テントの骨やら幌を光となずな、友也と創、そして登良の三手に別れて運ぶ。

「登良、怪我するなよ。」
「ステージ造る校内アルバイトで慣れてるから、平気だよ。友也。」

肩に長いテントの骨を掛けて、重たそうな布類は光たちにお願いしてさっさと複数回の往復。場所は創たちが決めたらしいのでそこと道具置き場を行き来して、ついでにペグを打つようにハンマーも借りて戻ると、乙狩先輩が骨を組み立てていた。乙狩先輩?と声をかけると、三毛縞か。どうした。と聞き返された。『UNDEAD』も二つテントを立てるって言ってませんでした?と問いかけると、すでにもう出来上がっているらしく、あとひとつももうすぐで終了するから手伝いにきた。と言うので、登良はありがとうございます。と言うしかない。それでも一人に任せるのは心苦しくて、手伝いを申し出る。骨をとってくれ、と言われて差し渡せば、細い穴の中にするすると入って瞬く間にテントの形をなして、あっという間にテントが二つ出来上がった。そろそろ荷物を持った光となずながやってくるのを思い出して、そちらを手伝おうと決める。

「乙狩先輩、ありがとうございます。とても助かりました。」
「困ったら、また呼んでくれ。」
「あっ、アドちゃん先輩!」
「光ちん!寝袋を落とすなって!」

持っていた荷物を投げ出した光とそれを回収してひぃひぃ言うなずなに、登良はちょっと呆れながら、手伝いますよ。と光の落とした荷物を拾い上げる。登良ちんもおつかれ。とお互いに声を掛けて二人で笑う。ふと視線を光に向けると、光は乙狩と戯れている。光、と登良が声をかければ思い出したようにギクリと体を震わせた。

「光、終わった?」
「登良ちゃん、もうちょっとで終わるんだぜ!」
「っていうことは、まだ終わってないよね?」
「そう、なんだぜ……」

じゃ、最後までやろっか。とにっこり笑ったままで登良は光に寄る。有無を言わせないように笑みを浮かべ、はいどうぞ。と光に荷物を渡し、全部終わってからね。と釘をさせば光は登良ちゃんありがとう!と笑って荷物を運びに戻る。登良ちん、光ちんの手綱引くの上手になったなぁ。となずなが感心しているが、登良はえへへ。と濁す。仕事はきちんとしなきゃね。光のためにもならないし、いつかこれも光のためだと、そう登良は言い切る。

「まぁ、これを運んだら終わりだし、登良ちんも好きにするといいんだぞ。」

はぁい、と返事をしたのはいいが。どうしよう。走り込むか、ダンスをするか、歌うか。選択肢は多い。この時間をどう使うかと思案して、一度散歩して考えようとぶらりと足を動かす。ぼんやりとどこまで散歩しようかな、と思考を巡らせていれば、木陰でごろりと寝転んでいる朔間と目線があってしまった。おや、三毛縞くんではないか。と赤い瞳がほっそりと三日月を描いて、手招き一つ。長年培った先輩が絶対の体育会系に染まっている登良は誘われるままそちらに歩み寄った。立ってるのも辛かろうて座りなさい、と言われたので、登良は一礼してから朔間の隣に腰をかけた。

「ええと、登良くん、じゃったかな。よかったら、我輩の話し相手になってくれんかの。」
「はい、大丈夫ですよ。俺はなにをしようか考えてたところなので、俺でよければ。」
「そうじゃのお。何を話そうかの」

まさかこんなに素直に聞き入れられると思ってなかったから、と口を開く朔間に、登良はふと一つを思い浮かべた。共通の知っている人。
朔間先輩、あの、よかったらですけど。兄について教えていただいてもいいですか?俺は、学院でいる兄の事をあまり知りません。家では兄面をして、俺たちを文字どおり壊れるほどに構い倒してくるので、常日頃から俺は嫌気がさしてますが。学院に入って、兄が帰ってきてから何度か仕事をしましたけれど、仕事を共にする度に兄が何を考えてるか解らなくて、兄の先生である朔間先輩から見て、兄はどうなんでしょうか?
そう投げ掛けると、朔間は余裕の表情を浮かべ「以外と辛辣な事をいいおるの。」そう口を開いて、続ける。
まぁ兄とは、弟や妹が目に入れても痛くないからの、にしてもその年でそこまで考えおるなんて、そこまで兄と気になっているならば、一度折り見て腹を割っ話してみるのも一つじゃと思うが……。それは我輩のところも同じことよ。それでもまあ老いぼれから見た三毛縞くんとの誤差はあるじゃろうて、参考程度の話になるがの、戯言に付き合ってくれんか。



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