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校門前は別のところが使っていたので、そのまま流されるように場所を探していると、あんずと出会った。経緯を話して、噴水前が空いてたよ。と教えてもらいあんずもレッスンしよう。と五人で移動をする。噴水脇に荷物を置いて、すぐに柔軟をして【ミステリーステージ】の一曲目の振りを確認するように踊っていく。あんずが手拍子でカウントを取るので、それに合わせて踊る。
創がよたりと動いたので、大丈夫?と声をかける。苦手なんですよね、と言われて、登良はここはこうしたほうがいいとおもうよ。とアドバイスする。その通りに踊ってみると、おどりやすい!と創が目を輝かせた。登良と創のやり取りに光が加わり、三人で喜ぶ。嬉しくなった光が回転と逆立ちとアクロバットも足してくる。

「見てるだけで、目ぇ回っちゃいそうです。独楽みたいですね〜ね、登良くん。」
「そうだね。」

楽しくなった光が創も登良もコマのように!なんていいつつはしゃぐ。創はぶつかると危ないし回転は苦手だから。と断る。

「なら、髪結んじゃう?動きの激しい曲も出てくるかもしれないし」
「ダンサブルな曲の時は髪を結んでもいいかも?」
「ほら、これ使っちゃおうよ、創くん!」
「どうしてぼくに自分の髪留めをつけたがるんですか?やめてくださいっ、それ女の人のやつでしょう!?」
「俺の予備使う?」

ポケットからゴムが切れた時の予備を渡そうとするが、この間千切れて補充するのを忘れていた。ごめん、なかったと登良は告げる。あんずは私もなかったや、とまた準備しとくね、なんていうのを創は大丈夫です。と断った。友也が登良を呼ぶ。なに?と聞くと、ここってどうやるんだ?と問い合わせに登良は一瞬悩んでから、こう。と一度ゆっくり踊って見せる。悩む友也に単語をつけつつ再度繰り返すとなんとなくわかったのか、こう?と振りをしてみせる、そうそう問いつつ、カウントを取ると友也が踊る。振りを見ていると、回を増やすことに成功率が増してきている。

「登良はすごいよな。」
「あの兄に比べたらばかばかしくなるけどね。」

上が化け物レベルだと、振り回されるのも大変だよ。いつか、『あんなの』の後を継ぐなんて、嫌だな。と登良はつぶやく。友也は演劇部の部長と想像を合わせて、同情する。なずな経由で登良は友也がどんなことをしたのかはある程度聞いてるので、さすがにサファリはないけどね。まぁ、離岸流に突っ込まれて、めちゃくちゃ怒られたことはあったけど。それ、ほぼほぼ一緒だぞ?。そうかなぁ?
打てば響く会話を繰り広げる。余計なことをしゃべりながらも、きちんと登良は返していく。これは?あれは?となげられるので登良は解説をしながら一曲を通していく。一通り踊れたので登良は淡々と拍を叩くだけに努める。

「と…友也くん登良くん?どうして二人とも無言で拍とったり踊り続けてるんですか、赤い靴とかメトロノームのつもりですか?」
「……考え事してるみたいだし?」
「友ちゃん、どうした!いつも『足並みをそろえろ』とか言ってるくせに動きがバラバラだぜ!」

集中できてない感じっ、やる気がないなら邪魔だから座ってろ!とびしっと指を立てて光が友也を締める。ちょっと上の空感は否めないので、登良は黙々と手を叩き続けているのを辞めた。じっとその先を見つめる。エメラルドのような目の色が友也を、続いて創と光を見つめる。思いつめたような友也が口を開くのを待った。思いつめているなら、何時か言ってくれればいいと考えている。それでも今言わなければいけない時だと登良は口を開く。

「に〜ちゃんとも相談してバックのフォーメションを変更してもいいと思う。」

どうしてもだめならその時は友也がつぶれない方法をみんなで探そう?俺たちみんな揃って『Ra*bits』だもの。と友也の手を握って登良の指を絡める。オリーブグリーンの瞳が緩やかに弧を描く。目元には心の底に沈んでいる優しい人柄の光がほのめいている。
友也の琥珀色の瞳がかち合う。沈黙が降る中で、新たな声が響いた。視線を動かすと、そこに『Knights』の鳴上が立っていた。「あら、恋かしら?」なんて言いつつウインクを放っている。

「うわっ、びっくりした!?あれっ『Knights』の鳴上先輩?」
「うわぁい、嵐ちゃん先輩〜、ダァ〜イブ!」

鳴上の登場に嬉々として光が飛びつく。しっかりと光を受け止めて、飛びついてこないでよ。悪い癖よ。と嗜めている。嵐ちゃん先輩なら受け止めてくれると信じてたんだぜっ!太陽みたいな満面の笑みでいうが、嫌よ。と鳴上は首を横に振る。それでも光は無邪気に鳴上に飛びついた。今まで踊っていたこともあるので、光は熱いだろう。登良は何も言わず光と鳴上の距離を開けた。うふふ、いい子ね。と鳴上は登良の頭を撫でた。

「あのう、鳴上先輩、何か御用だったんですか?『Knights』の皆さんも、【ミステリーステージ】の本番前の最終調整っていうかレッスンをするんですか?」
「うん。リハーサル的なことはしてるわよォ。但し『講堂』の【ミステリーステージ】専用の舞台でね。あんたたちもそっちに合流してくれる?」

あんずちゃんから連絡があってね、『Ra*bits』もこっちに合流できないかって。相談があったの。実際合同ライブなんだしね。一緒にリハーサルした方が都合がいいでしょ?と言われて、登良は首を傾げた。『Knights』のリハーサルに参加して邪魔にならないのだろうかと、思考する。に〜ちゃんがいないから返事をするのはとも思ったが、こっちにくるということはなんて思うと、おそらく『Knights』側も快諾してるのだろう。

「じゃあ、せっかくなんでリハーサルに混ぜてもらおっか、荷物纏めて移動するぞ〜?」
「ご配慮ありがとうございます、鳴上先輩。あとでに〜ちゃんも合流するかと思います。」

お礼はあんずちゃんに言ってあげてね。アタシも言われるまで気づかなくってむしろ『ごめんね』って感じだから。
うりうりと言わんばかりに頭を撫でられ、登良はされるがままにして待っていた。頭が揺れて、すこしだけ唇がへの字に曲がる。甘んじてうけてしばらくすると、ぽんぽんと叩いて終わりだと言われ、登良は髪の毛をそっと結びなおした。

「ともあれ、アタシはちょっとした用事の『ついで』にあんたたちを呼びに来ただけだから。とりあえず、あんたたちだけで『講堂』に行ってくれる?」
「用事ってなぁに?オレ手伝うぜ?」
「あら、ありがと。でも駄目よ。」

今回の『盗品』を校内に隠すのがアタシの役目なの。一日交替で今日はアタシの番ってわけ。さすがに探偵さんたちに『盗品』の在処を知られちゃ困るし。と鳴上が頷く。それならば、と登良は考えを口に出すためにあんずに問いかける。

「あんずさん。鳴上先輩から、奪ってしまうのは有りですか?」
「登良!?」
「校内探索の時間も無くなるし、バックダンス終わった瞬間に『Ra*bits』の時間になるならありだと思うんですけど?」
「あらやだ。この子目が本気。」

鳴上が二歩ほど下がるのを見て、登良は俺はやりませんけど。と付け足して息を吐く。登良ちゃんあんまり目が笑ってないわよ。とか言いつつ登良は鳴上を上から下まで見た。何かを持っているような気配がない。もしかしたらポケットに入れたり、昨日の場所から回収したりするのだろうかと考える。ユニット衣装にポケットを付けるユニットはそんなにないと記憶している。『Ra*bits』の衣装にだってポケットはなかったはずだ。と思い浮かべる。裏側に入るようなものだろうか、と考えつつ、登良は唸る。どこか変だと思いつつも言語化できないもやもやが浮かぶ。

「捕まえられるもんなら、捕まえてごらんなさい!アディオス・アミ〜ゴ!」

最後にとんとんと頭を叩いて鳴上はひらひらと手を振って走って行った。それを視線で見送って、登良は手をひらひらと振り返す。その目の前を光が走っていく。それを見送って、創がのんびりと二人とも足が速いですね。と楽しそうに見ている。

「呑気にしてないで、俺たちも追いかけよっか。荷物は俺がみんなの分を運んでいくからな。」
「光の荷物頂戴。光、追いかけるね。」
「そうしてくれると助かる。」

光の荷物を受け取って、自分の荷物を抱えなおすと登良は軽い足取りで走り出した。頼むぞー。という後ろの声に片手をあげて登良は一気に加速する。最初の角にたどり着くと、遠くから光の声が聞こえるのでそちらに走る。すぐに追いついて、登良と光は二人で鳴上の捕獲に努める。時折まかれそうにもなったが、その時折に光が方向を決めるので登良はそれに従った。登良は、鳴上を捕らえそこなっても、謎をしっかり解けばいいと思っているのと、正攻法じゃないといいつつ容認するべきか悩んでいるので踏み込めずにいた。しばらく走っていると後ろから友也と創とあんずが合流して五人で鳴上を追いかけ、捕獲に成功するころには校舎を離れガーデンテラスまで来ていた。




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