兄嫌いとホワイトデー三毛縞が欲しい人が組んだ結果。





登良は目の前の景色に、元々の下がり眉がなおも下がった。この空気が悪いというか、どことなく居心地が悪いというか。服の袖が中に入ってゴロゴロしているような感覚、どことなくむず痒いような違和感があるというべきなのか。伝えにくい空気の違和感を感じ取って、反応に困る。
小さな打ち合わせブース。一番入り口近くに登良は腰を掛けていてその隣になずな、登良の向かいに兄、その兄の横に以前問題を起こしたユニットである桃色の髪をした人が腰を落ち着け差し出したばかりの茶を飲んでいる。

「――で、斑ちんは登良ちんが欲しいと?」
「こはくさんの前例が出来てしまっている以上事務所の掛け持ちも問題はない、だから素直に再度言おう。登良くん、一緒にユニットを組もう」
「あの、いや。お断りします。」
「どうして!?」
「兄嫌いなんで……。」

お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはない。なんて斑が言うが、育ててもらった覚えはない。毅然と登良はそう言い返す。毅然と返す様に、斑はいや、だから。なんて縋ろうとするが、そのたびに登良はすべて折り目をつけて返した。

「あんたさんも大変やな。こんなやつと兄弟やなんて」
「こはくさん、どっちの味方なんだ!?」
「お幸せに。」
「すっごくいい笑顔!」
「そもそもユニット名をDoubleFaceと言う名前にしようとして、三人目を招集するのはおかしい話でしょう。」

差し出された企画書に、登良は怪訝な目を向ける。兄が人を誘って立ち上げたユニットだとも聞いているのだが、読んでいる限り名前と違う動きをしている雰囲気も感じる。これはきなくさいと嗅覚が告げている。先ほど渡された企画書にはどういう風に新しいユニットが動くか書いているが、兄のやりそうな手を予想しながら思考を巡らせる。

「登良ちんは、どう思う。」
「兄と同じユニットは嫌ですし、掛け持ちも去年体が足りないということを十二分に理解したので、ご遠慮します。」
「――だそうだ。」
「それに、俺の師は朔間先輩ですから。」
「お兄ちゃんは悲しい!」

ほらみたことか、とこはくは呆れて言葉を零している。
こないしっかりした意思を持ってるんやから、何言うても無駄や。諦めい。そう説き伏せても、斑は唸っているし、これ以上は何言うても平行線だとこはくが言い切って、斑を回収し去ろうとしているが、斑のほうがまだ納得言ってない様子で、首を振らない限り動かないだろう。どうしてこの男に巨体と無駄な体力を与えたのかと神に文句を言いたくもなるが、登良の知っている神は、多分与えないだろうとも判断が取れるので、多分本人の素質なのだろうかと諦めた。が、ここで何をどうしてもこの男を動かすすべを登良は持たない。どうする?となずなの目が強く訴えかけてくるのを見て、登良は覚悟を決めて大きく息を吸った。

「……お兄ちゃん。」

震えた声が、視線を集めた。自分と同じ色した瞳がこちらをとらえたのを見て、登良は一度にっこりと笑って、斑にとっての地獄を押し付ける。

「嫌いなので、さっさと出て行ってください。企画書もお返しします。あぁ、えぇっと……桜河さん?も、これ連れてお帰りください。お手数おかけします」

しっかりと発音すると同時に、斑が石のようになって固まる。漫画のような表現だな、と登良は思った。誰もそんなことを口にすることもなく、こはくも茶を飲み切ってから斑を引きずって小さな部屋から出て行く。去り際に「石になってもうた方が連れ帰るの楽やわ。おおきに。」なんて残してドアが閉まる。モノを引きずる音がだんだんと奥になって最後、何も聞こえなくなった。しばらくの沈黙を経て、二人して漸く大きく息を吐きだした。緊張に包まれた部屋が漸く落ち着きを取り戻した。

「なんか、色々短い間なはずなのに。ドッと疲れたな。」
「に〜ちゃん。ありがとう。一緒にいてくれて。」
「最初はビビったけど、まぁ、斑ちんだもんな。仕方ない、登良ちんもお疲れ。」
「来週、多分また来ると思うので、に〜ちゃん、またお願いします。」

そんなことが怒るわけがないとなずなは笑ったが、登良の予想が正解して、この間の倍の分厚さをした企画書を押し付けてきたので、実力行使で斑を事務所からたたき出したのは、事務所で武勇伝としても語られることになったのだった。



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