■ あいしてなんて言わないから、せめて一度

暗い部屋の中で、私の意識が覚醒して、水に浸されていることに気がつきました。体を起こしてみると、清らかな水の臭いと濃い魔物の匂いがどこかから流れていて、なにがあったのかと、思い出してみると、仕事に向かうために廊下を歩いているところ、ローザの脱走の幇助をしたということで処刑すると罪状を読み上げていくなかで、衛兵に縛り上げられた私の視界に話を聞いたのかシドが一瞬目が合いました。こちらを見て、悔しそうな顔をしていたのですが、あれよあれよと私は担ぎ上げられ、とある部屋に、投げ込まれました。
その部屋の真ん中で座るゴルベーザ様に、出会って意識を無くしたのだと思い出して、あぁ。と一人納得をするのです。牢を見回すと、どうやらこの部屋は薄く水が流れる牢屋だと理解は出来たのですが、バロンとも違う違和感を覚えながら私は視界に見えた足に小さな声をあげるのでした。
肌のいろをしていない脚は魚のようなヒレをもち、私の意思に従うかのように動くのです。その、足をたどり着く足の付け値をみると自分のからだのお臍のほんの少ししたに沢山の縫合された後がびっしりとそこにありました。どうして。私の頭では理解できない現状が口からこぼれ落ちました。二つの足はそこになく、エメラルドグリーンのような色合いの煌めく鱗がそこで、ピシャリと水を叩いて、音を鳴らしました。

「目覚められましたかな?」

音の方に視線を投げ掛けてみると、通路を挟んだ向こう側の牢屋で柔らかな傷だらけでありながらも、弱く笑みを浮かべた夫婦の方がそこに居られました。バロンらしくない顔立ちに、捕らえられたミシディアの民かとも思いましたが、見たところ魔導師のなりをして要られませんので、疑問が沸いて首をかしげていますと、その夫婦はエブラーナの者だと仰有られましたので、私もバロンのものだと答えると、バロンがバロンを捉えるなどどういうことだ?と二人して首をかしげられ、私もよくは解りません。と伝えると、ただ沈黙が降りました。
その沈黙の中で、私は、わからない頭で必死にこの足について考えるのですが、どうしてこうなったか。なんて解らずに、唯一処刑をされたというこだけは、理解が出来、それいがいは頭の中はどうして?という、ワードで一杯に埋め尽くされた頃に。遠くからカチャンカチャン。と、音をならして向こうからゴルベーザと、知らない男がやってきた。私とその見知らぬ男と目があった瞬間に、男は牢の格子をつかみ、ぎろりとこちらを見られ、その視線の鋭さに私は小さく悲鳴をあげると、ゴルベーザはルゲイエと、隣の男の名を嗜めるように呼ばれました。

「実験は成功したようですな!人の魔力と魔物の魔力を、まぜることにより成功率もあがったようじゃ!」
「来ないで!」

口から出た音に、身体中の魔力が沸き起こり体に触れていた水が、大きな音を立てて爆発がおきて、ゴルベーザとルゲイエに襲いかかりましたが、ゴルベーザの氷魔法で一瞬にして阻まれたのでした。

「カイナッツオが、こやつに水生魔物がいいと押していたのも、よくわかるのぉ。」

ゴルベーザ様、こやつをセシルたちと宛がってはいかがですか!カインも間もなく戻ってこられるのでしたら、戦力を削がれている今こやつを投入すれば、よいのじゃ!あのセシル達をすべて片付けてくれるやも、知れませんぞ。
彼の名を聞いて、戸惑っていた思考が穏やかに冷静さを取り戻し、聞こえていた言葉が色をもって鮮やかに色づき始めました。彼の名前を聞いただけでこうなるのですから、私はなんと安い女なんだろうかと私自身を嘲笑した。

「彼は、彼等はいきているのですか?」
「…ミストで、仕留め損ねた。我々の動きを阻止しようとしてはいる。」

良かった。そんな言葉が胸の中でうまれた。この言葉を生むよりも。そうですか。と簡素に答えて視線を下に落としました。ゴルベーザは。ほう。と言葉を漏らしながら、なにかを考えていました。

「そなたは、カインを好いているのか?」

カインは私の手の中にいて、私の意のままに動かすことができる。私が指示さえだせば、そなたの横で頭を垂れることもさせれる。どうだ、セシル達を殺せば、そなたの意のままにカインを操ってやろう。
そんなゴルベーザの言葉に血の気が引いていくのがよくわかりました。セシル達と違い、どうしてそうなったのかはよく解りませんが、セシルとローザがゴルベーザを阻んでいる様子だと言うのがうっすら理解が出来ました。
彼が私を見てくれる。そんな夢のような言葉が、頭の中を色づけてくれましたが、それはつまるところいつかは覚める夢でしかないのです。夢はかならず覚めるもの、彼が私の隣で笑んで、言葉を囁けどもそれは偽りのものでしかありません。

「私はカインが昔から好きですが。嘘で固められた言葉が聞きたいわけではないのです」
「さよか。」

久々に舌に乗せた彼の名前は、ひどく懐かしく幼い頃に見た笑顔を思い出しましたが、あの時のような笑みも眼差しも見ることが出来ないのはひどくかなしいことですが、最後に彼にひどい言葉を投げたことに後悔ばかりして亡きくれるのでした。

「また、返事をもらいに来る。」

それだけ言葉を残してはゴルベーザがきびすを返しました。消えていくゴルベーザの背中を見ながら、私は彼の名を溢すのでした。あわよくば、彼にあって謝りたいと、思うのですが、人ならざるこの体では、どうしようも出来ないのです。人ならざる私なんて、人でも魔物でもない私はもう謝ることもどうすることも出来ないのですから。

オセロ
あいしてなんて言わないから、せめて一度

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