■ 20170602 メロウver

王のためと働く姉のような人はよく笑う人だった。まるで太陽にあてられとろけきったバターのようであり、全てを溶かさんとする太陽のようで、怒っていることも泣いていることも見たことのないただ笑みを浮かべて仕事をしてたりカインたちをかわいがっている彼女だった。カインの一つ年上の彼女は、今思うともしかしたらあの人は俺たちよりも前から知っていたのかもしれない。セシルは言うのは禁じられている。と言っていたと記憶しているらしい。それだけから察するに彼女はきっと知ってしまっていたのだろう。言わない、と言えないは知らないとは大きく違う。ぼんやりと彼女について考えながら書類を片付けたカインはふと目線をあげるとそこに立っていた。

「カイン?いらっしゃいますね?」

先程まで考えていた彼女だった。セシルとカインの仲をとりもち、ローザの手を引いて歩いている面倒見のよい姉のような人だった。そんな彼女は王の身辺の支度をする女中の姿をしその両手には掃除道具を持って表れた。

「陛下が、カインとセシルのお部屋を清掃しておいでとおっしゃられたのですけど」

あまり必要なさそうですね。と肩をすくめながら、お利口さまですね。という。俺もセシルも部屋はきちんと整えるように教え込まれてるので、手入れの要らない部屋である。きっと働き詰めの姉だからと陛下が気を回してくれたのだろう。茶でもいれるか、とサイドボードにある茶器を持ち上げると、姉は気付いたように茶器を奪い取る。

「あらお茶をいれるところだったのですね。代わりにお入れいたしましょう」

微笑んでそのまま彼女は奥にと歩く。座っていていいのですよ。と言うので、それに甘えてカインは腰を下ろす。姉のお茶はカインもセシルも好物でよく昔つくってもらっていた。こうしてのむのは久しぶりじゃないだろうかと考えていたら、姉はエプロンを脱いでお茶を運んでくる。香り高い茶葉を選んだようで、いい匂いがカインの鼻腔を掠める。

「今日はカインの好きな茶葉で。お茶請けも一緒に持ってきたのだけれど、召されます?」

太陽のように笑う彼女は、手のひらにお茶請け用の焼き菓子を一緒に机の上に広げる。どれもこれもカインの好物ばかりで、焼き菓子と彼女を交互に見ていると、姉は椅子に座ってカインの向かいに腰をかけた。小さな丸テーブルなので、距離は近い。なれた手つきで紅茶を蒸らしてカップに注ぐ。
ゴールデンドロップはカインの方へ。といいながらポットから最後の一滴が落ちる。どうぞ、といわんばかりにカインの目の前に焼き菓子と茶を渡して、自分の分も注ぎ出す。

「さぁどうぞ。召し上がれ。」

春の陽気ににたような朗らかな笑みを浮かべてカインに茶を進めるので、カインは遠慮なく茶を口にしようとしたところで、自分が寝ていたことに気がついた。目の前には彼女は居ず茶菓子もなく、殺風景な石畳と目の前には高くつまれた書類が目の前に広がっていた。

「メロウ?」

口の中で彼女の名前を浮かべて、そこで気がつく。彼女はこの間自分の槍で息の根を止めてしまったと。否、クリスタルが記憶を読みメロウ姿をとっただけだったが、それは本物のメロウのような終わり方を選んだのだ。溶けるように泡のように、まるでそれはおとぎ話にあった終わりのように。もしも本当に記憶を読んで写した偽物だとしても、本物以外に思えないのだが。間違いなく彼女は人の姿をとっていなかったが空気を泳ぐ魔物になって自分達の目の前に表れたのだ。
人ならぬヒレを持ち、青緑に輝く鱗をまとい空気を水のように泳ぐ亜人型の魔物だというのに、彼女は魔物の狂暴さを持たずに、相も変わらず溶けたような笑顔をして、生前のような笑みをして彼女は命を溶かして消えたのだ。最後の時までカインを慈しむメロウだった。追いかけても嫌いだといいながらも、カインのことを思い続けていたのだった。自分の手の中で消えていくあの感覚は砂のようだったと覚えている。先の大戦でメロウの死を見た仲間たちは泡のように浮かんで、それはシャボン玉のように溶けたと言っていたのに、どろりと消えていく命の塊の感触だけは戦いの終わった今でも鮮明に思い出す。
メロウの死は呪いのようだとカインは思った。こうして今でも夢に出てきて何事もないように、さざ波のように陽炎のように蜃気楼のごとくなにも与えずきえていくのだから。
もしかすると彼女は心の底でカインを恨んでいるのかもしれない。大きくなってもカインはセシルは、ローザもシドもメロウの気持ちになんて全く知らなかったのだ。それでも、誰かに伝えたくてしたためた遺書だけはひどく素直にかかれていた。その手紙は、カインが今保管している。誰も使わなくなったメロウの部屋のメロウがよく読んでくれた本の中に最後の一枚を、そしてその他はカインの近くで保管している。宛先のない手紙に書かれた一文は誰にも見せたくないという気持ちだったのだろうとカインは判断している。読まれるわけもない、気づかれるわけもないと思って書かれた手紙だ、主張の少ない彼女の唯一の想いはひっそりと亡きバロン王の近くにいるのがいいとも思っているからだ。

お前はただバロンでは安らかでいてほしい。


昨年の子、王の女中でカインの一つ上。バロン組最年長メロウのお話のもっと先。
じあふた後のお話。
悲恋だったけれど、それはそれなりに彼女は満足してるのかもしれません。
あなたが生きているのなら、これってかなり芯の強い願いだと私は思うんです。
ルドルフもメロウもきっと自分の身を投げ捨てるタイプだと思うので、
かわりに幸せになってください。タイプ。

ルドルフも同じタイトルなのに、どーしてこんなにも違うものが生まれるのでしょうね。
メロウで中編でもしようとおもったけれど、これはこれで重たいのでいいかな。と。
きりもいいし、バロン王もちょっぴり出てるし、きっと影ながら見守ってくれていると思ています。


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