3

 ジルベール・ステファンは内心とても震えていた。
 あの日、自分の14歳の誕生日に突如起こった悲劇。不可思議なほど全て消えてしまった。そしてジルは自分が無力で何もできないことを知った。
 明らかに何か裏がある、ジルは身分を偽りいくらか所持していた金貨を駆使して今日まで生きてきた。いくら闇ルートを使ってもジルが求める情報は得られず、大貴族ステファン家の不可思議な消失事件は事実を大きく捩曲げたただの火災として伝えられた。もちろん生存者はいない事になっている。ステファン家は医療に卓越した家だったこともあり、火災により薬物が混合し身体に有害な気体が充満していると言われており、軍から危険区域にされたため誰もステファン家の領地に近付こうとするものはいなかった。もちろんそれが嘘偽りであることをジルは知っている。あの時からもう一年の月日が過ぎていた。
 一年の間にジルは気付いた。これほど調べても何も出てこないならばこれはよほど上の者が首謀者なのではないかと。
 ジルの住むこの国ルーベルは大陸の東に位置しており他国に比べてかなりの領地を所有している大国であった。また、ルーベルがそれほど大きくなれた要因はこの国が軍事国家であったことが大きいだろう。もちろん軍部の情報管理は徹底していて流出したなどという噂は一度もなかった。
 そしてジルは考えたのだ、どうにかして軍部に入り込むことはできないかと、だが身分を偽り生きているジルが入れるはずもなかった。軍部に入り上のポストに着く事は貴族達のステータスでもあった。もちろん平民も志願は出来るが、よほどの実力者でない限り入ることは難しいとされている関門。だからこそ貴族の子供はこぞって軍部育成学校という、上流階級のものしか入れないであろう金持ち学校に入学するのであった。
 ジルもあと二年経てばそこに通うことになっていた。だがそれも叶わぬものとなってしまった。
 そしてジルはこの男娼館に来たのだ。裏町の中でも上流階級の貴族様御用達のこの店へ。
 ジルは自分の見目を理解していた。だからこそ自分の唯一の武器でどうにか軍部に近付くしかないと考えたのだ。この店に入る条件はただ一つ、店主が気に入るか否かだった。
 ジルの自らの志願に店主は初め大層驚いていたが、ジルを上から下まで見ると何も聞かずに迎え入れてくれた。そんな店主に言われたことはただ一つ、自分の価値観なんてものは捨てなくてはならないのだと、そして本来ならば仕込ませてから客にだすものだが、初者は案外客受けするものだという理由で今日までジルは処女を守っていた。だが今日は室内の電話が鳴ったのだった。

「ジル、君にお客様ですよ。大丈夫、彼を初めての相手に出来るなんて君は幸せ者です。ただ忘れてはいけない、君はあくまで買われる身などだと言うことをね」

 店主の声色は優しく、そして厳しかった。ジルは思った、やっと自分の力ではい上がるチャンスが来たのだと。けして真実を見つけ出すまで弱音を吐くわけには行かないのだと。
 そして彼、カグラが現れたのだ。しっかりとした体躯に甘いマスクと色香を持った男。一瞬見惚れかけたジルだったが、店主の言う通りこんな男が初めての相手というのは幸運かもしれないと思ったのだった。



<< >>



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -