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 店主から受け取った鍵を片手に目的の部屋へ向かう。
 裏町の中でも一流の男娼館だけあって客層も上流階級の者がほとんど、皆一夜の戯れを求めて此処にくるのだ。だからこそ個々のプライバシーを徹底的に守るためか、一つ一つの部屋の扉は厚く防音設備も完璧であり廊下を歩くカグラの耳にも自分の足音以外の一切の音は聞こえなかった。
 目的の場所に辿り着いたカグラは手持ちの鍵で重い扉を開けた。
 室内はクリーム色を貴重としたカーペットに壁紙、広々とした一室には骨董な机と椅子に大きな天蓋ベッドが中心に置かれていた。
 慣れた手つきで鍵を壁の鍵かけにかけ、ゆるりとベッドの方に近付くと、少年はカグラの予想通りベッドの上に座っていた。
 おそらく室内電話で店主から客が来るのを聞いていたのだろう、カグラが現れたことに戸惑いの色は伺えず、寧ろやっときたのかというような落ち着いた様子であった。

「やあ、少年。随分と初仕事なわりに落ち着いてるんだな」

 カグラはくすりと甘いマスクに笑みを浮かべながら少年の傍に腰掛けた。
 少年は豪奢な金髪の髪をゆらし輝く金眼をカグラの方に向けた。

「落ち着いてなんかないさ。俺はこれでも緊張してかちこちしてるんだけど」

 少年らしい話し方にふふふっと漏らしたカグラは少年の綺麗な金糸を撫でながら「確かにそうみたいだな」と返した。

「ところで少年。君の名は何というんだ?一夜限りとはいえ名無しでは味気無い」

「・・ジル。俺はジルだよ。お客さんは何て呼べばいいの」

 含みのある言い方に、この子も何か訳ありなのだろうとカグラは思った。

「私か?私は・・カグ・・。いや、ユラお兄様とでも呼んでくれ」

 何か悪戯でも思いついたかのような笑みを浮かべながらカグラは言った。カグラの本名はユラ・カグラ。この地では少し異質な名であった。

「・・・兄様って、お客さん無理あるんじゃ・・」

 どん引き状態のジルは引き攣った顔をしながらそう反論した。

「ジル君ひどいなあ。私はまだ二十三歳、十分いける歳だと思わないかい」

 カグラの笑顔の裏に何か黒いものを感じとったジルは承諾するしかなかった。



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