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「とすると、私と君はライバルだな」
「ライバル・・・?」
ジル達は会場に向かいながらそんなたわいのない会話をしていた。
「そうさ。私はレディには優しいが君が男となれば話は別だ。だから君に宣戦布告をしておくよ」
そう言って青年はにこりと笑みを浮かべた。
「今年の"GloriousKnight"は私が頂くつもりだから」
"GloriousKnight"それはその年の入試で一番成績のよかったものに与えられる称号である。
つまり、特待生に一番近い存在である。
ジルはそんな青年の言葉に、自分の中で闘争心が沸き上がるのを感じた。
「奇遇ですね。俺も"GloriousKnight"を狙っているんですよ」
ジルの言葉は芯が通っていて、その見た目からは想像出来ないほど男らしいものだった。
「君もか・・・何だか君とは良い友人になれそうな気がするな。でも、負けないよ」
「それは俺も同じです」
ジルは彼とならカグラやバルトルのような、信頼たる友になれるような気がすると、何の核心もなかったけれど思ったのだった。
「そう言えば、名前を聞いてなかったね」
「俺は・・「いや、やっぱり止めておこっか」」
青年はジルの言葉を遮った。
「君か私か、どちらにしても"GloriousKnight"になったものは入学式の新入生代表で前に出ることになるしね。その時まで、お互いの名は伏しておくほうが私はいい気がする。それに君とは必ずまた会えるって私の感が言ってるしね」
青年はそう言うとくるりとジルの方に向き直り、片手をとった。
「ああ、本当に君が女の子だったら今すぐにでもプロポーズしたいくらいだよ」
そして手の甲にそっと口付けた。
「・・・っな!?」
ジルは反射的に手を引っ込めた。
「くくくっ。でわでわ可愛いお嬢さん、また会えることを祈っていますよ」
そんな歯の浮くような言葉をさらりと言うと、青年は試験会場に入っていった。
「・・・お・・お嬢さんじゃないって言ってるだろうがっ!!!」
真っ赤になりながら、青年の後ろ姿に向かってジルは吠えた。だが、ぱたりとしまった扉に掻き消され、歯痒い気持ちだけが残ったジルなのだった。
そして、あんなくさい言葉を簡単に言えてしまう美形に他に心あたりがあったジルは、世の中結構いるもんだな、と思いながら会場へと足を踏み入れた。
そのとき、屋敷からはカグラのくしゃみが聞こえていた。
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