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いきり立っている美女を眼の前にして、状況が全く飲み込めていないジルは呆然としていた。
それに対してカグラは微笑を浮かべながらその突然の訪問者に言葉をかけたのだった。
「これはこれはギルベルト大佐、そんなに慌てて如何なさったのかな」
「・・・ユラ。今は仕事ではない、そのわざとらし物言いは止めて頂けないかしら。それより、ジゼルに変なことをなさってないでしょうね」
そう言ってカグラを睨だのは、ギルベルト大佐、つまりバルトルの妻であるルイーダ・ギルベルトであった。
「ふふふ、どうだろうね。本人がそこにいる事だし、君の旦那様に直接聞けばいい」
そんなバルトル本人は未だに、何故此処にルイーダがいるのか分からず、疑問を巡らせていた。
「ちょっと待ってくれ、何でルイーダが此処にいるんだ。確か今日は仕事が詰まっていて泊まるかもしれないって言ってなかったか。それに俺は家の使用人にしかカグラの所に行くって伝えてなかったんだけど・・どうしたんだよ」
「どうしたのじゃないわ。そこの変態男から伝書鳩で詩が送られてきたのよ」
そう言ってルイーダは一枚の紙を差し出した。
"闇夜に栄えるその銀の愛しき者を招きたいと思いたち我今宵彼の者を我が手に"
「こんなものが届いてあっそうと仕事が出来るほど、私器用な人間ではないわ」
ルイーダは興奮したようにそうバルトルに言った。
「・・えっと、つまりこの御婦人はバルトルさんの奥さんで、怪しい手紙が届いて心配になり訪ねて来たってこと?」
今入ったばかりの情報を何とか自分の中でまとめたジルは、そう投げ掛けたのだった。
「どうやらそうみたいだな」
バルトルは一人飄々と笑みを浮かべているカグラをちらりと見ながら溜め息をはいた。
「ジゼルさん。そんな眼で見ないで下さいよ。私は過保護なあなたの奥さんを心配させないようにとお手紙を送っただけなんですから」
あからさまに嘘としか思えないような言葉をさらりと述べたカグラを見て、バルトルは再度溜め息をはくのであった。
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