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ジルはどうしようもなく追い詰められていた。
「ジル様。さあマリアにお任せ下さいませ」
「そうですよ。せっかくユラ様がご用意下さったのですから」
そう言ってにこにこしながらジルに詰め寄った二人の手には、どう考えても女物にしか見えないドレスが握られていた。
「お、俺はそんなものを着る変態趣味はないっ」
ジルは朝飄々と出掛けて行ったカグラを思い浮かべ忌ま忌ましく思いながら、眼の前の事態になすすべがなかった。
一時間後、憔悴しきったジルと、達成感に充ちた二人の姿があったことは言うまでもないだろう。
「ジル様、とってもお似合いですわ」
「本当に、ユラ様の奥方と言われても全くおかしくないですよ」
そう二人は笑顔でジルを誉めそやしたのだった。
実際、落ち着いた藍色のドレスを纏い、髢を付けたジルはどこからどうみても美少女にしか見えなかった。
ジルは暗い顔をしながら、カグラに対してぶつぶつと呪いのような泥語を呟いていたのは致し方ないだろう。
その頃カグラはと言うと、バルトルと共に馬車で自宅への帰路を急いでいた。
「そういえばジゼルさん。君の奥さんには今日の事は言っているのかい」
「いや、ルイーダも忙しいからさ。とりあえず家の使用人にだけ伝えてきた」
それを聞いたカグラはふふふと笑みを浮かべ、「それはそれは、君も罪作りな男だね」と呟いたのだった。
カグラの言葉の意味をバルトルが知るのはまだ先のことである。
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