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バルトルの促しで隣接している隣の部屋へと二人は移動した。小振りな部屋ではあるが、しっかりとした机とソファーが置かれた一室であった。
「・・・成る程。聞かれてはまずい話しってわけですか」
この部屋には特殊な磁場によって内部の音がけして漏れることがないように細工がされている。
「まあな。少しばかり厄介なことになりそうだ」
そう言うとバルトルは一枚の黒い紙をカグラに渡した。その黒い紙を見たカグラは確かに厄介事らしいと肩をすくめた。
「・・はぁ。これではまたしばらく裏町には行けそうもない」
がくりとうなだれるカグラを見て「自業自得だ」とバルトルは思った。
「ユラ、お前どうせまだ一回こっきり使い捨てみたいな非道なことしてんだろ」
バルトルはやれやれといった眼を向けた。
「人を極悪人みたいに言わないでくれません。これでも裏町じゃ人気者なんですけど」
「どうせみんなお前の顔と懐目当てみたいなもんだろ。いつ刺されても文句言えねえぞ」
学生時代から一緒なバルトルはカグラのことをよく理解し、そして心配していた。
「お前が男しか無理だってのは分かっているけどよ。せめて誰か一人に絞ろうと思わねえかな。俺はお前にまともな恋をしてもらいたいわけよ。そんでもって幸せになってほしいんだわ」
それはバルトルが常々カグラに対して抱いていることだった。
「・・・君がそれを言いますか。私の初恋を無惨にも打ち砕いた君が」
「・・・っしゃーねーだろ。俺はお前のこと友人以上には見れなかったし、何より俺はルイーダのことがっ「なーんて冗談ですよ。あなたみたいなルイーダ馬鹿私の方から願い下げです。・・・それに彼女には絶対勝てる気しませんしね」・・ユラ、お前・・・」
カグラはバルトルの言葉を遮るように皮肉めいたことを言った。それは本心でもあり、どうしようもないことだと分かっていたからこそ出た言葉だった。
ルイーダとは彼ら二人の同期でありバルトルの奥さんでもあった。そして彼女はカグラと同じ大佐の地位にあり白薔薇の館に勤務していた。
先ほど手渡された黒い紙を懐にしまいながら「恋・・ですか・・・」とカグラは笑みを浮かべた。
そして、何やら企んでいるような顔をして「うーん。そうですね」と呟くと、バルトルの方に視線を向けて口を開いた。
「やはり、子兎よりも子猫のほうがおもしろいかもしれませんね。そうは思いません?ジゼルさん」
突然しっかりと自分の方に顔を向けたかと思うと、先程も言っていた謎掛けのような言葉を振られたバルトルは「・・まあ、俺も猫の方が好きだな・・・」と曖昧な返事を返したのだった。
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