イロヅイテ

そんなに、好き?

うん、 だいすき。

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イロヅイテ
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空には世界があると思う。

地上に世界があるように。

天空には天空の世界が。





「圭ちゃん、見て」

圭ちゃんと呼ばれたのは数沢圭介。
ただの、凡人。芸術に魅せられた、秀才。

圭介は、"空"をみた。
玲奈が描いた"空"を。
正確にいうならば、坂上玲奈によって映された、"空"を。


「へぇ、……綺麗じゃん」

関心して漏らした声は本物で、だからこそ、言わずにはいられなかった。

「…なあ、画家。なる気ないか?」
「ない。」

この問答はもはや日常と化していた。
圭介が絵を見る度に、…いや、絵に魅せられる度に。

ただ、今日だけは少し違った。
いつもはそれで終わる会話。だが、圭介は続けた。
「俺は勿体ねぇと思う。
玲奈が描いて俺がみて、ほかに誰が見る?これはどうなる?」
玲奈を振り返って、
「俺は純粋に、魅せてやりてぇ。
世界を嘆いてる人間に、"空"を。"世界"を。」

見つめられていた玲奈は、目を伏せた。
その姿でさえ、芸術だった。

「…あのね?圭ちゃん。
実は衝撃的な事実があったんだよ。ボクが描く絵にはね。
どうしようもない事実がね、真実じゃなくて事実がね、あったのさ。」


「なに、それ?
てか事実も真実も一緒じゃねぇか?」


「違うよ。…ハァー。
だって考えてもみなよ、圭ちゃん。
ある事実は誰かにとっては真実で、誰かにとっては偽りだから。
誰かの感情を纏ったものは、"ほんとう"じゃなくなるんだよ。」


「ああ、なるほど。
捩曲げるもんな、人間ってのは。
それで?どんな事実?」


「いつも描いてる"世界"はね、圭ちゃんがいるからなの。
圭ちゃんのいる世界は、輝くの。一人だった世界より、キミがいる世界の方が、溢れてるんだ。
輝いて、溢れた、"空"をみるの。
"空"にうつる"世界"をみるの。」


玲奈は空を見上げた。
圭介もつられて見上げる。


「ねぇ、なんだか、"世界"が見えない?
笑顔が零れるような、あったかい、微笑ましい、"世界"が。」

「…ああ。確かに、な。」


二人の瞳は蒼に染まって、時間が髪と彼女の映した"空"を攫っていく。


「だから、画家にはならない。というよりなれない。
キミなしじゃ使いものにならない画家は、いらないからね」


そう言って笑って、玲奈は圭介を振り返った。


彼はそんな彼女の頭を撫で、
「なぁ、そんなに好き?」

「うん、 だいすき。」

だって、キミの居ない世界は考えられないからね。




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時間は風のことです。
時間の流れ=空気の流れ
そんな方程式。

世界はどこにも溢れてると思う。
意識してみようとしないだけで、名がついてるすべてのものには、世界が。

それを感じて、映して、魅せてくれるのが画家だと思う。
常識を越えた世界を、カタチにしてくれる。

しんせかい、だと。




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bkm



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