「自分を愛せない人に誰かを愛せるわけがないっていうけどさ、自分を愛する人が誰かを自分以上に愛せると思ってんの?」
何の衒いも虚勢もなく、只々本音だけを口にするような人だった。
その言葉の意図がどこにあったのか、未だに知らないままだけれど。でも只管傷ついたような声色をしていたのを知っている。
彼女は他人の言葉ではなく、自身の言葉に傷つく人だった
その事実に気づいている人間は少なく、俺と、佐々倉。
一人の後輩と一人の教師である。
本人はその痛みの出所に気づく気配が一向になく、不可解そうに顔を歪めて笑うのだ。
ねえ蒼井くん、世界はこんなちっぽけな人間にも不条理だよ、と。
佐々倉が先輩のその痛みに気づいていると感じたのは確か文化祭だったと思う。
写真部の俺たちはそれぞれ文化祭のために、写真に一言を添えていたのだ。
手早く終わらせた俺や他の部員もクラスの準備に戻っていて、忘れ物をした俺は取りに戻った。
そこで、先輩の隣に腰掛け目を歪ませる佐々倉の姿を見た。
結局そのどこか現実離れした空間に足を踏み入れることができず、何も見なかったと言い聞かせながら諦めたのだ。
佐々倉の隣で苦しげに笑う先輩のことを。
諦めた。一方的に。
だからって何かが変わるわけもないのが現実で。
「前を向いて歩け後ろは振り向くなって、どれだけ傲慢な言葉なのだろうね。後ろに何を落としているのかもわからないのに」
先輩の価値観は相も変わらず、今日だって俺の傍で言葉を吐く。
一方通行
(宛先に届かない想いばかり)
嫌になるね、まったく。
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memo.
20120222 hina.
bkm