ひだまりの中
「…もう夏、だねぇ」

晴れ。
明りの消された各停電車。

ガタゴトと揺れる世界で、キミは笑う。

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ひだまりの中
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「夏ってかもう秋じゃね?」
「ええ?まだ8月にもなってないよ?」
「ズレてるだろ、季節」
「でもさ、仮に1ヶ月早まってるとしたって、まだ秋じゃないよ。かろうじて夏の終わり」
「ああー…。ま、1ヶ月って仮定も微妙だがな」
「……べーっだ!」

どうやら怒らせたらしい。
いや、拗ねた?


7月の終わり。
朝と昼の間。
現実逃避にのんびりと。
電車に揺れる。


「明日からまた学校だな」
「うへぇー、テンション下がること言わないでよー…やっときた休みなのにぃ」
「しゃーねーだろ。1週間前だし。それとも何?お前休むの?」
「ニヤニヤすんなバカしね。範囲絞ってくれること祈りながら行くに決まってんじゃん」
「あー…、絞ってくれんのかね」
「じゃなきゃ絞るよ私が先生を」
「おいこら」

軽く嗜めればうにー、という唸り声。
こいつはきっと人間じゃない。とりあえず前世は絶対猫。
項垂れているかと思えば、節電されて明りの消えた車内を見渡して、ふにゃりと頬を緩ませる。

「……なんかさ、いいよね」
「ん?」
「この雰囲気。この空気。すっごい、穏やか。まるで春の日だまりだ」
「そうか?」
「うん。…みて」

言われて実来の指差す先、明りの消えた車内から窓の外、光にあふれた景色を見た。

「柔らかく見えない?」
「……ああ」
「キラキラキラキラ。――宝物みたいだね」

すぐに頷けなかった。
ただ圧倒されて。
景色そのものではなく、そう見ることができる実来の心に。
言われて初めて、もしかしてこれが幸せってもんなんじゃないかと思った。
何か特別である必要は一切なく。
むしろ特別は必要なく。

――透明な、柔らかな。

実来のような。
そんな心さえあれば、意識さえあれば。
日常が平穏に、幸福に染まる。

ひだまりがあたたかいように。

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memo.
20110725 hina.


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