※これの続き千歳の独白 白い雲に青く晴れる空。 こんな陽気な日に散歩に出ないなど勿体ない。人より大柄な身体は多少目立つが、日本に居たときに気配を消すことに慣れていたし、何より"任務"で呼ばれる以外は人が近付いて来ないからだ。 見張りをしている自分より下の階級の兵士に行き先だけ告げて散歩に出かける。 久々にのんびりとできる散歩に、柄にもなく浮き足立って居るのがわかった。 空を見上げながら、のんびりと歩く。時折吹く風がきもちいい。 少し歩いたところに、木々が生い茂って昼寝するのに絶好の場所を発見した。サクサクと草を踏む足音を立てながらその場所まで歩く。 日陰の柔らかい芝生の上に腰を下ろして空を見上げる。 この空は日本まで続いているんだなあと改めて思ってしまった。 空を見て、日本に置いてきてしまった家族や、友人や、彼の事を思い出す。最近は忙しすぎて思い出す暇もなかった。 妹はきっと家族が支えてくれるだろう。友人たちはふざけながらも、優しい人たちだからお互い切磋琢磨し合って仲良くしているだろう。 …では、彼は?友人たちと一緒で優しくて、でも時に男らしくて。 最後に言った"行ってきます"を覚えてるだろうか。本当は行きたくなかった。 目の手術は嘘では無い。ただ、その時点で俺が"兵器"になることは決定していた。よくわからないが、兵器の核と適合していたらしい。未だによくわかっていない。 わかったのは、俺が兵器にならなきゃ家族も友達も勿論彼も殺されると謂うことだ。俺一人が犠牲になればみんな助かるのだ。 怖くなかったと謂えば嘘になる。 兵器って?何をされるの?何をするの?最初はそんな事ばかり考えていた。 手術をして、二日目に身体に異変が起こった。 学者たちは俺の様子を物珍しそうに伺っていた。正直に言おう。この日ほど"死にたい"と思った日は今のところ無い。 身体の中を何か得体の知れないものが支配していって、背中を何かが突き破った。その様子を見ていた、学者たちは感嘆の声を上げ喜んでいた。実験は成功したらしい。 突き破った時に痛みは無かったが、自分の身体が気持ち悪くてしょうがなかった。背中から生える金属の塊。そこから飛び出すコード。左腕も背丈の半分ほどの機関銃に変化していた。 そこまで変化して自分はもう"人間"では無いことを理解した。 最初の一週間はひたすら人殺しの技と、力の使い方ばかり教え込まれた。 力の使い方がわからず何度か失敗して、関係のない人たちを殺した。練習していく内に段々と制御方法を覚えていって、手術してから10日後には実戦をさせられた。 小さな戦争だったが長く続いてこれ以上長引くのも無駄だと感じていたらしい。 そこで出来る限り殺した。 殺らなきゃ殺られる。戦場とはその様な場所だと身を以て知った。 結果としては何年と続いていた戦争が一日で終結した。 思った以上の威力だったらしく、学者たちは実験を辞めるべき者とこのまま続けるべき者とで意見が別れたらしい。結局存続派多数で未だ俺は生きている。 一ヶ月を過ぎた頃には噂になっていて、誰も近付かなくなった。学者たちですら必要最低限しか近付いて来ない。 気にはならなかったが相変わらず任務は多く二、三日に一度は必ず駆り出されて敵味方関係無く殺した。 半年も過ぎれば人を殺すのに慣れてしまい躊躇いなど無くなった。 そして、兵器にされてから一年が経とうとしている。 あの日から一年。 彼は…謙也は元気だろうか?もう可愛い彼女を作っただろうか?相変わらずテニスをしているのだろうか?聞きたいことは山ほどあるが、謙也に連絡を取ることなど出来ない。此処で連絡を取ってしまったらきっと逃げ出したくなるから。 一度謙也のことを思い出して仕舞えば様々な記憶が蘇る。出会った日、初めて話した日、告白された日のこと、キスをした日のこと、…最後に会った日のこと。そのすべてを今は記憶ではなくデータとして保存してある。 どの謙也も楽しそうに笑っている顔ばかりで思わず自分の表情が綻ぶ。一通りデータを見返して、青く晴れた空を見上げる。 「謙也…会いたか…」 誰に言うわけでも無く呟いた言葉は風に消されてしまった。 だけど、呟いた事に因って謙也への想いが堰を切って溢れだした。聞かれる事は無いのだから吐き出したい。これ以上抱えているとショートしそうだ。 「…あんね、ホントは人殺しなんてしとうなか。みんなと一緒に中学生として、過ごしたか。謙也とデートしたり、キスしたりそれ以上もしたかったと。ずっと一緒にいたかったんよ」 「だけん、俺もう人間じゃなかと。兵器やけん、そげなこと無理やのわかっとっと。」 「それでも、…俺は謙也のこと好いとうんよ…!兵器の癖にアホば思うかも知れんけど…!」 「っ、けんや…!」 一度溢れた物は止まることを知らず、涙となってこぼれた。 膝を抱えて泣くなどユウジや白石に笑われることだろう。だけど、今は泣かせてほしい。 きっと謙也はおろおろしながらも背中を擦ってくれるに違いない。そんなことを考えながら謙也を想って泣いた。 ( 現実は残酷だ ) それから数日後に彼に会うのだ。 ( ただいま ) ( おかえり ) ( 現実と夢 ) 最カノパロの続きです。最後よくわかんなくなったけど書きたいこと書けて満足でした。 0630 |