たまに、子どもの頃の夢を見る。
子どもの頃って言っていいのかはわからない、見覚えのない景色だけど、それでも懐かしく思う。
いつも起きた時は胸が温かくて、なのに涙が出るくらい苦しい。

ここではないどこかの、長閑な村。
近くに山があって、村の外れには古びた大きなお屋敷がある。
お化け屋敷みたいで、長らく住んでる人はいないようなそんな場所。
村の子どもたちは1度はそこで肝試しをしたりしていた。

夢は色んな日を見せてくれた。
黒髪の女の子と遊んだり、喧嘩ばかりしている金髪の男の子と遊んだりしていた夢。
どうにも現実離れした、綺麗な顔立ちだったことを覚えてる。
彼といると楽しくて嬉しくて、もしかしたら、淡い初恋だったのかもしれない。

そんな中でも繰り返し見たある日の夢。
星空がキラキラ輝いていて、天の川のようなオーロラのような、不思議な色の星雲が印象的だった。

彼はあたしと黒髪の女の子を村の中心にある給水塔に呼び出して、近いうちに村を出るんだってそう言った。
子供がヒーローに憧れるように、英雄になりたいと、そう言った彼の瞳は輝く星空に負けないぐらい輝いていた。

それから、彼女は毎日ニュースを見て、新聞を読んで彼の活躍を心待ちにしている。
あたしにも嬉しそうに、少し頬を染めて彼の名前を口にする。
きっと彼女は彼のことが好きなんだろう。

そんな彼女を見て微笑ましくなったし、あたしも一緒に楽しみにしていて、いつか再会できる日を心待ちにしていた。
でも一番は、怪我なく無事に帰って来てくれたら、そう願うばかりだった。





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繰り返し見る夢は、いつしか思い出になっていた。
彼の名前も彼女の名前も、あの場所も全然知らないはずなのに、おかしな話だ。
夢の中では確かに呼んでいるのに、目が覚めると思い出せないのがもどかしい。

「なまえちゃん、起きてる?」
「はーい。いま、行きます」

母親の呼ぶ声に支度を整え部屋を後にする。
今日は19歳の誕生日。
帰ったら毎年恒例のレストランで食事をしましょうと笑って、見送ってくれた。

小さい頃、施設から引き取ってくれた優しい両親。
施設も、記憶のない名前しかわからないあたしを引き取ってくれた大切な場所。

本当の年齢も誕生日もわからないから、今日が誕生日って言われてもしっくりこないけど、それでも祝ってくれる両親の気持ちは嬉しい。
こんなに立派なお屋敷で何不自由なく過ごせるのは、かなり運がよい出来事だと思う。
実の子供のように愛してくれている、その愛情が嬉しくてたまらない。

繰り返し見る夢が記憶になるのは、きっとそういうことなんだろう。
もしかしたら、本当に過去の記憶なのかもしれないけど、しっくりこないのは異国の雰囲気と現実離れした彼らの容姿。
どこか小説を読んでる感覚に近い。

大学へ向かう道、遠くの空が不思議な色に輝いていて、その色は何故かとても懐かしい気がした。
夢に見るあの星空の、澄みきった紺碧の海のような、そんな色。

それと同時にとても泣きたくなって、名も知らぬ"彼"に泣かないでと、そう告げたかった。



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