初恋ゼリー


「なぁ、怪しいと思わないか?」

今日は定休日の前日で、いそいそと皆で店の至るところの掃除をしている。
リキトと拓海でフロアの掃除をしていると、急に拓海が話しかけてきた。

「…、何が?」
「グレイとルイス。」
「……どー言った意味で?」

主語が抜けきった拓海の言葉に、リキトは眉間のしわを深く刻み込んだ。
拓海はキョロキョロと店内を見回し、ルイスとグレイが居ないことを確認した。
ルイスは食材を見に倉庫へ、グレイは昨日と同じく遅刻の罰として外の掃除をさせられている所だ。
今がチャンスとばかりに、ひそひそ声で話し始めた。

「あいつらさ、帰るときに決まってケーキを四つ買って帰るんだ。」
「…それが?」

ひそかに期待した割にはくだらない理由を話し始めた拓海に、
リキトは呆れた表情でため息を吐いた。

「ぜーっっったいあいつら女と暮らしてるよ!絶対!」
「だろうと思った。」

予想通りだった拓海の言葉に、リキトはまたしてもため息を吐いた。
ほうきで集めたゴミを、ちりとりで掬い上げて、ゴミ箱へ入れた。

「リキト気にならないのかい?!」
「気にならないよ、別に。そんなの個人の勝手だろ。」

拓海はリキトの薄すぎるリアクションに腹を立てて、ばさばさとほうきを床に叩きつけた。
また、ほこりが増えたのを見てリキトはもう一度ため息をついた。

「はぁ、大体そんなの気にするのは拓海くらいだろ。」
「えー…」
「ブーブー言わない。女子高生か、拓海は。」
「えー、リキト君は気にならないんかー。」
「何度も言わせないでよ、俺は興味な―」

…。リキトは口を閉じている拓海と目が合った。
よく考えると、声が拓海とは違う。つい答えてしまったが…この声は…

「…ハンスも気になるのか?」
「いいや、別に野郎がどんなトコに住んでようが気にならんけどなぁ、
なーんか面白そうやん?」

ふへへへ、言葉で表すならそんな笑みを浮かべたハンスがいつの間にか机にだらしなく寄りかかっていた。

「明日は丁度定休日。…こんなチャンス滅多に無いで!」
「おうよ!」
「…定休日って決まった曜日に休むから定休日なんじゃないのか?」
「細かいトコは気にせんの!ええか、明日俺の家に集まって新作メニューの考案会するって理由でルイスとグレイを集めるぞ!」
「おう!」

妙なところで団結力を見せた拓海とハンスを差し置いて、リキトはほうきとちりとりを片付けた。

「明日、8時に店の前集合な!」
「リキトもな。」
「うぇぇ…」

完璧に巻き添えを食らったリキトは、何回目かわからないため息を吐いた。

「よし、集まったな。」

翌朝8時。しっかり集まった三人は、早速グレイの携帯に電話することにした。
じゃんけんで負けたリキトが、めんどくさそうに携帯のボタンを押した。

「…もしもし。」
『…ふぁい…』

携帯の呼び出し音の後に、寝ぼけて掠れた声が聞こえた。

「おはよ、グレイ。」
『、おはよ…、今日休みだよ、な…』
「うん、そうだよ。」
『…何か、用、?』
「“今からグレイん家行っていい?”」

拓海とハンスによって用意されたカンペの通り読み上げた途端、携帯の向こうからガタン!と大きな音がした。
大方、グレイが落ちたか打ったか両方か。

『は?今からくんの?』
「うん。行く。」
『…。駄目だ。』
「…拓海、断られた。」

眉毛を下げて、すぐ近くに立っていた拓海に携帯を渡した。

「もしもしー、グレイ?」
『何だよ、やっぱお前か。切るぞ。』
「だ が 断 る 。
行くからな、今から。じゃ。」

ブツッ。強制的に会話を中断させ、リキトに携帯を返すと拓海はハンスの愛車に勝手に乗り込んだ。
何故こういう時にだけ拓海はアグレッシブなのだろうか。

「よし、ハンス。この住所に向かってくれ。」
「がってん。リキトくーん、出発するで。」
「あっ待って!」

急いで車に乗り込むと、エンジンがかかって車は目的地へ進んだ。
しばらくして急に車が停止した。近くの駐車場にキチンと停めて、マンションのエントランスへ向かうようだ。

「…豪華、だよなぁ…」
「…普通のマンションじゃないよなぁ…」
「…おい、行くよ。」

自動ドアの前に立ちつくした拓海とハンスは、まるで観光客のようにマンションを見上げていた。
リキトは恥ずかしい、と呟くと先へとっとと進んでいった。
自動ドアを潜り抜けて、オートロックへずかずか歩いて行くと慌てて観光客達が走ってきた。
部屋番号を入力して、呼び出しボタンをしっかり押す。

『…ガチで来たんだな。』
「勿論だ、たまにはいいだろ。お宅訪問。」
『…別に俺一人だったら構わないけどさぁ…あっ!レリッ!てめっ』

ウィーン。寝ぼけたグレイの声が遮られて、急にオートロックが解除された。
…レリ、とは何だ。

「開いたな。」
「一人だったら構わない、ってことは一人じゃないってことやな。隊長。」
「そうだな。これでむさ苦しく男同士でルームシェアだったら俺はグレイを疑う。人間として。」
「…置いてくぞ。」

適当にエレベーターを呼びつけて、三人はグレイの部屋へ進んでいった。
約二人、さながらRPGの主人公にでもなったかのような気分で歩みを進めた。
呼び鈴を押すと、一瞬グレイの叫び声が聞こえたが、直ぐに止んで鍵が開いた。

「や、お早う。」
「「「…オハヨウゴザイマス。」」」

出てきたのは、金髪のロン毛のお姉さんだった。

「…出るなって、言ったのに…」
「うるせー、友達を家に入れない馬鹿が何処に居る。」

お姉さんの後ろからノコノコとジャージ姿のグレイが現れた。
はぁあ、とため息を吐くと、拓海とハンスを指差した。

「少なくともそこの赤毛とメガネは違う。」
「オイコラグレイてめぇ何つった?」
「ヒドイなぁ…パティシエに向かってなんて事を…」

ぶすっと仏頂面になったグレイは、帰れオーラを醸し出していた。
そんなグレイとは裏腹に、お姉さんはニコリと笑って、

「どーぞ。グレイの部屋以外はきれいだから上がって。」

と言ってくれた。優しくて美人でいい人だ。

「お邪魔しまーす。」

靴をキチンと揃えて、玄関を後にした。
前を歩いているお姉さんの後を付いていくと、広々としたリビングに出た。

「適当に座って。今コーヒー入れるから。」

そう言うと、お姉さんはキッチンへ消えた。
お姉さんが見えなくなると、大人しく座っていた拓海とハンスが勢い良く、立っていたグレイに振り向いた。

「誰だ、あのお姉さま。」
「どういう関係なん?っちゅーかどこまで行ったん?」
「やっぱりな、お前等それ知りたさでココまで来ただろ。」
「当たり前だろ!」
「…お前のソッチ方面の知的好奇心には感服するよ。」

呆れた様子のグレイは、丁度やってきたお姉さんから青いマグカップを受け取ると、ずずっと一口飲んでからお姉さんに椅子に座るように促した。

「そこに座ってるのはレリオ・パキラ。
俺の親父の友達のお兄さんの娘。…ちっさい頃からの知り合い、だな。」
「よろしくー。いつもケーキ美味しく頂いてるよ。」
「どうも有難う御座います…でも何で同居してるんですか?」
「ん?色々役に立つから。」

コーヒーを一口で飲み干したレリオは、椅子にもたれてしれっと答えた。

「ほら、家賃浮くし、漫画一緒に集めれば楽だし、一緒にゲームできるし、病気しても看病してもらえるし看病してあげられるし。なかなか良いだろ?」

確かに。的を射ている。

「やましい関係でもないし、姉弟みたいなもんだし。
気が楽だし。」
「そうだ。だから拓海が期待してるようなことは何も無いんだよ。」

そう言うと、レリオのマグカップも持って、グレイはキッチンへ行った。

「それで、レリオさん、実際のトコ何処まで…」
「ごほっ!!」

鮮やかな金髪がキッチンに消えた瞬間、拓海はテーブルにマグカップをドンと置き、
真剣な表情でとんでもないことを言い放った。
いつまで、引き摺るんだ。

「…そんな…言えないです…!」
「いいじゃないですか、ほら。」

その言葉を投げかけられたレリオは、さっきと打って変わって頬に手を添え顔を赤らめてあたふたしだした。
…。ノリノリだ。

「どうですかグレイは…うっ!」
「セクハラで訴えるぞ。」

どすどす、廊下から物凄い足音が聞こえたかと思うとドアが乱暴に開けられて急にグレイが駆け込んできた。

「おっ、チョークスリーパー…」
「ギブギブギブ!」
「姉ちゃんに変な事聞くなよ!」

椅子の上で青ざめた拓海は必死にタップをしている。
チョークスリーパーをかまされるくらいなら聞かないほうが良かったのでは…

「へー、姉ちゃんって呼んでるんだ。」
「そうよー。だってグレイは3歳位から姉ちゃんって呼んでるんだもん。
何て言うか…今更姉貴とかレリオとかで呼ばれてもね…」
「確かにな、でもまさか姉ちゃん呼びなんて思わなかったなぁ…」
「あーあー3歳の頃のグレイは可愛かったなぁ…コンビニでね、アイス買うときにね、」
「わぁぁぁぁやめろぉぉぉぉぉ!!」

拓海の首を絞めていたグレイは、真っ赤になって必死にレリオの口を押さえた。

「もういいだろ!大体何しに来たんだよお前等!」
「…あぁ、忘れとったわ。今日な、新作メニューの考案会しようと思っててん。
だからこの後できれば来て欲しいんだけど。」
「…新作?ああ、それならいいよ。じゃあちょっと行って来るわ。」

ハンスから建前を聞いたグレイは、レリオの口から手を離した。

「おう。帰りは?」
「帰るときに連絡するよ。」
「了解。存分に親睦を深めてくるといいよ。」

グレイはてけてけと自室へ歩いていくと、適当な服に着替えて帰ってきた。

「うっさい。行くぞー。」

レリオから鍵を預かると、ハンスを引き摺るようにしてリビングから出ていった。

「あ、お邪魔しました。」
「あいよ、いつでも来ると良いよ。お姉さんお仕事は家でやってるから。」
「何のお仕事してるんですか?」
「ん?雑誌の記事書いてるの。だからいつでもおいで。」

頬杖を付いて、ニコリと優しそうに笑むレリオを姉ちゃんと呼びたくなるのも頷ける。

「はい、今度は手土産にケーキ持ってきます。」
「うん、楽しみにしてるよ。じゃーね。」

レリオとグレイの家に別れを告げ、既にマンションの前に停まっていたハンスの車に乗り込んだ。

「次はルイスの家か…よし、今回は俺がかけるわ。拓海、耳のところで携帯押さえててくれるか?」
「了解。」

片手で電話帳を検索して、車を走らせながら電話をかけた。

「…もしもし、ルイス?」
『ハンスか、何か用かな?』
「ああ、あんなあ、今俺の愛車でお前んち向かってるから。」
『また急に突拍子も無い…』
「ええやん。それとも何か行っちゃいけない理由でもあるんか?」
『無いよ。夢中になれる彼女も居ないしね。』
「そらよかった。…あと十分ぐらいかなぁ。」
『わかった。ジュースは四つ用意しておくよ。』
「あら、ばれてた?」
『そんな予感はしてたんだ。それじゃ、後でね。』

プツッ、ハンスの合図で拓海は携帯の通話終了ボタンを押した。
グレイの様にギャーギャー騒ぐでもなく終了した会話は、ハンスとルイス以外に知られることは無く。
車内には、グレイの馬鹿でかいあくびが響いた。

「ここや。ささ、降りて降りて。」
「また立派なマンションだなぁ…」
「ホントだよ…」

もう一度携帯を出して、連絡をしているハンスの傍で三人はキョロキョロと辺りを見回していた。
グレイの家のマンションとはまた違った雰囲気で、落ち着いたシックなマンションだ。
連絡を終えたハンスが三人を見てクスリと笑うと、一声かけた。

「今迎えに行くから待ってて、やって。」
「迎え?」
「地下の駐車場に停めないと怒られちゃうらしいで。」
「ふーん。」
「お、来た来た。」

車の横で大人しく待っていると、オートロックを潜り抜けてルイスがやってきた。
ジャージのグレイとは違ってワイシャツをきちんと着た出で立ちだった。

「やっぱり、リキト君達も居たんだね。」
「や、やっぱりと言いますと?」
「なんとなく、来るような気はしてたんだよ。
それじゃあ、ここでもう少し待ってて。車を停めてきちゃうから。」
「了解。」

ルイスの言葉に唖然とする三人はオートロックの前でしばらく待つことになった。

「何でばれたんだろうな…」
「知らねぇけど、拓海の考えそうなこと位分かるってことじゃねぇの?それか予知夢。」
「失礼だな、俺のお陰でお前は貴重な休みを無駄に過ごさなかったんだから有り難く思えよ。」
「寝て過ごしてたほうがよっぽど良かったぜ。お前みたいに女に慣れてるわけじゃないんだから。」

目の前でバチバチと火花を飛ばす二人を放置して、リキトはキョロキョロ辺りを見回した。
未だ、ルイス達は現れそうに無い。

「まだかなぁ…っ?!」
「ワンワン!」

見回していたリキトの足元に、黒い柴犬の子犬が擦り寄って来た。
首輪とリードが付いているから野良ではないが…

「何処から来たんだ?」
「ワフ!」

すっかり懐かれた様だ。
子犬は尻尾を振ってごろんと寝転がった。

「…キョウ?」
「ワフ!ワンワン!」

首にかかっていたネームプレートには、キョウ、と書かれていた。
名前を呼ばれて遊んでくれると思ったのか、子犬―キョウは立ち上がって尻尾を振り出した。
…。困った。連れの二人は何故か今後の漫画の展開について熱く討論していて全く周りが見えていない。
……。どうしようか。

「キョウ!何処?」
「ワン!」

キョウを抱き上げてキョロキョロ人を探していると、後ろから金髪の女の子が走ってきた。
キョウの飼い主だろうか。

「キョウ!」
「あの、飼い主さんですか?」
「…!はい
急に走って行ってしまったので困っていたところでした
本当に、有難う御座います」

キョウを渡すと、深々とお辞儀をした後、キョウを抱えたままマンションに入っていった。

「…何処かで見たような気がする…」

女の子自体には見覚えが無いが、女の子のかもし出す雰囲気と言うかオーラというか…
何処かで見た、そんな気がした。

「お待たせ、皆。」
「ほら、リキト行くで!」
「うん!」

女の子が去ってから五分ほどしてから、ルイスとハンスが帰ってきた。

「随分遅かったな?」
「駐車場めっちゃでかかったんや。」
「そうかな?」
「せや。マンション自体でかいしなぁ…いやんなるわー。」

ああやだやだ!とオバチャンみたいに嘆いているハンスに付いてマンションへ入った。
後ろではさっきまでギャーギャー討論していた拓海とグレイが物珍しそうにキョドキョド見回していた。

「そういえば…このマンションってペットOKなの?」
「どうしてだい?」
「さっき子犬を連れてる人を見かけたから…いいのかなって。」
「ああ。ペットOKのマンションをわざわざ選んだんだ。
俺の部屋にも居るよ。可愛いからきっと皆気に入ると思うな。」

こうして話している内にも、エレベーターを二回駆使した。
流石、大きいだけある。

「さ、ここだよ。入って。」
「お邪魔しまーす。」

案内されるまま部屋に入ると、広々とした玄関が現れた。
グレイの家のよりでかい…

「キョウ!おいで!」
「ワン!」

靴を揃えて長い廊下を歩くと、ルイスは犬を呼びつけた。
…キョウ?!

「キョウって言うの?」
「ああ、そうだよ。可愛いだろ?」
「…もしかして、ルイス…」

妹が、そう言い掛けた時、廊下の奥の扉が開いてさっきの女の子が現れた。

「兄様、おかえりなさい…あ…」
「あ、さっきの!」
「さっきエリスと会ったのかい?」
「エントランスで、キョウと一緒にいた子…」

そうか、何処かで見たことあるって思ったのはルイスの妹だったからなのか。
偶然もあるもんだ。

「先ほどは、どうも有難う御座いました」
「いえいえ、それほどでも…」

もう一度、ピシッとお辞儀をした。
エリスと言うらしい。
ルイスに似て、しっかりしている。

「どうぞ、立ち話もなんですからお入りください」

エリスに案内されるまま、リビングへと入った。
間接照明が落ち着いた雰囲気を醸し出していて、ゆっくりできるような空間だった。
―ルイスらしい。

「オレンジジュースでいいかな?生憎コレくらいしかなくて。」
「あ、お構いなく。」

雰囲気に感化されたのか、珍しくグレイが大人しい。
雰囲気の重要さが身にしみた。

「それで、何しにきたのかな?折角の休日に」
「うっ…!
いやぁ、ほら新作のメニューも考えなアカンし、な?」

ローテーブルの周りに、リキト・グレイ・拓海・ハンスとルイス―
何故か面接のような形で座ることになった。
勿論、ルイスのほうが面接官だ。

「新メニュー、ね…」
「はい、どうぞ兄様」
「有難う。エリスもおいで。女性の意見も取り入れないとね。」
「はい」

オレンジジュースを運んできたエリスもルイスの隣へ座った。
なんとなく、二人は絵に描いたような貴族の兄妹、そんな感じがした。

「そーいや…エリスちゃんはいくつ?」
「今年で丁度高校へ入学です」
「そうなんだ…お兄さんはどう?優しい?」
「はい、朝食を作ってくれたり美味しいコーヒーを淹れてくれたりしてとても助かっています」

質問に、完璧に答えた。ホントに面接のようだ。

「妹と一緒に住んでるなんて知らなかったなぁ…しかもこんなに可愛いなんて。」
「はは、拓海、後で俺の部屋に来るかい?一人で」
「遠慮させていただきます鬼い様」

―面接官は厳しかった。

「さて、新メニューだったね…どんなものがいいかな?」
「せやなー、ケーキかなぁ…結構楽に改良ができるしなぁ。
拓海はどう思う?」
「んー、でもそんなにケーキって多すぎても飽き飽きしないか?」
「確かに、そうかもしれないね。」

ルイスの一言で火が付いたように、三人が一気に喋りだした。
ウェイター二人は、完璧に置いてけぼりを食らった。

「…なんかある?リッキー。」
「…考え中。」

いつの間にか寄ってきたキョウと遊びながら、何か案は無いか考えた。
…。残念ながら、リキトの脳味噌は最近出合ったメイのことしか思いつかない。
目の前のグレイを見ても、キョウと戯れるばかりで何も考えていないように見える。
……、困った。

「リキト君は何か浮かんだかな?」
「え、お、俺?」

遂に戦力外とみなされたグレイを差し置いて、リキトへ矛先が向かった。
レジ係とパティシエ二人が期待のまなざしでこちらを見ている。

「…あ!ゼリーは?」
「「ゼリー?」」

リキトに何かが降りてきたかのように、閃いた。

「甘酸っぱいラズベリーゼリー!
上にクリーム乗っけてさ!」
「…それ、いいかもしれません」

リキトの案に、エリスも乗った。
リキトの脳味噌は相変わらずメイのことしか考えていなかったが、それがもたらした結果は良い方へ転がった。

「あー、うちの店今までゼリーなんか無かったなぁ。
でかした!いいかもな!」
「それだけだと地味だから、中にぶつ切りにしたイチゴを混ぜるとか、ハートにくりぬいた寒天入れてみるとかどう?」
「おお!リキト君天才やん!」
「それじゃ、新メニューはゼリーで決まり。
…名前は、どうする?リキト君何かいいもの無い?」
「んー…じゃあ、」

初恋ゼリー

なんていかが?
(「「「リキトお前天才」」」)
(満場一致で決定しました)


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