「よし、鬼男くん。セーラーを着よう。」

大王の部屋で明日の連絡事項を読み上げていたその最中、全くもってなんの脈略もなく大王がそう言い放った。

「は…?」

思わず口から出た疑問の言葉など少しも気にすることなく大王は続ける。

「ほら、どうせもう今日の仕事終わったじゃん?だからせっかくだし…」

「前々から変態だとは思っていましたが、部下に…、ましてや男である僕にセーラー服を着せようとするなんて、閻魔大王様、貴方は変態の極みだったのですね。」

屈託なく笑う大王から一歩一歩距離を離してゆく。

「ちょ!いきなり畏まって距離を離そうとしないで!」

「気持ち悪いです!僕によらないでください!」

あわあわと走り寄ろうとする大王をうまく避け、部屋の入り口まで逃げる。こんなアホに付き合ってても良いことは無い。よし、今日はもう部屋に帰ろう。


そう考え、ドアノブに手を伸ばした瞬間、


「はい、ストップー」

「え…?」

僕の後ろで大王が楽しそうに声をあげた瞬間、伸ばした腕がドアノブに届く寸前に動きを止めた。


何故か背中の辺りがジリジリと痺れ、体の筋肉全てに力が入らない。

「なんなんですか、大王!何を…」

「はっはっはっ!鬼男くん、俺から逃げようったってそうはいかないよ?」

体が動かないせいで大王の様子は全く見えないが、多分満面の笑みで立っているであろう大王の姿が浮かぶ。

足音が近づき、僕の首のすぐ後ろ、耳の近くで声がした。

「閻魔大王様から逃げようなんて100万年早いよ─…」









「まぁ、というわけで、なんの変鉄もない鬼封じの札な訳ですが…」

まんまと動けなくなっちゃったねー、と言って笑う大王は、あろうことか着々と僕にセーラー服を着せていく。

どうにかして止めさせようとするのだが、言葉通りまんまと動けなくなってしまった僕は大王の作業を見ることしかできない。本当に、ある意味で、泣く子も黙る閻魔様とは間違いなくこいつの事だろう。

「大王、この札外してください。そしてセーラーを着せるなこの変態大王イカ」

「今の鬼男くんはなにいっても怖くないねぇー」

「ぶっ飛ばすぞ」

「はいはい〜」

さっきからこんな調子で全くやめようとしない大王は、セーラー服のスカーフをなれた手つきで結んでゆく。

「鬼男くんかっわいー!」

完成したのか、一度全身を眺めた大王は満面の笑みを浮かべた。

「爆発して死ねばいいのに」

「鬼男くん顔がマジっす…!」

「マジですから」

何が良いのか全くもって理解不能だが、男のセーラー姿を堪能した大王は僕のはいているプリーツスカートから覗く太ももに手をかけた。

「おい、なにしてんだこの変態」

「何って…セクハラ?」

言って笑いながらさわさわとスカートの中へと手を忍ばせる大王。ぞわりとした悪い刺激が動かなくなってしまった背筋を走り抜ける。

少し、これは不味いかもしれない。

「やめろこのイカ!気色悪い!」

必死になってがなりたててみるが、大王は気にする様子もなく脚の付け根付近まで手を滑らせる。

しかも悪いことに、僕の背後から太ももへと手を伸ばす大王の表情は全くうかがうことができない。

「ちょ、っと!本気でぶっ飛ばしますよ!」

語気を荒くして言うと、僕の背後で大王が笑ったのがわかった。



「やれるもんなら、やってみたら?」


耳元で息を吐きながら囁く大王の声は、なんというか、とても、


─…艶っぽかった










「だい、お…!ほんと、ダメですって!」

「えーなんでー?」

「も、イヤだ…」

性格の悪い大王は、僕の本気の言葉さえあっけらかんとして受け流してしまう。

いまだにスカートのなかで蠢く大王の指先は、時折中心に触れそうになりながら、中途半端な所ばかりをなぞってゆく。不意に耳元へ送られる吐息も相まって、最悪なことに僕の息は完全に上がっていた。

「は、ぁ…も、」

「鬼男くん顔赤いけどどうかした?息も苦しそうだし」

「この、性悪…!」

腰に響く悪い刺激をなんとか受け流そうと歯を食い縛りながら言うと、大王はなんの前触れもなく手の動きを止めた。

「え、ぁ」

「そうだね、そろそろ止めたげよっかー」

僕の前に回り込みニコッと笑った大王を見つめ、息を吐く。

「どしたの?物足りなかった?」

ニヤニヤする大王から視線を外し、舌打ちを一つ。

「大王、用がすんだなら、札を外してください…。」

「えーだって今外したら一人で遊んじゃいそうだしぃ」

「アホなこと言わないでください」


えー、と大王は渋る。


「そんなことしませんから、外してください」

疲れたんです。と吐いて大王を見れば、大王は僕の背中の札に手を伸ばした。

「仕方ないなぁ」

ペリッという音と共に体がふわりと軽くなる。やっと動いた。


「で、鬼男く…」

「大王。」

「え?」

笑みを浮かべて僕を見た大王の瞳を鋭い視線で捉える。

「よくも楽しんでくれましたねぇ?」

少し低い位置にある深紅の瞳を見つめ冷たい口調で言えば、一瞬にして大王の笑顔が固まった。

「ちょっと、鬼男くん…?」

じりじりと距離を縮めていくと、大王の笑顔が次第にひきつっていくのがわかった。

「ねぇ…」

「大王にどちらか好きな方を選ばせて差し上げます。」

そういって目を閉じると、大王はキョトンとして僕を見つめてきた。

「1つ目は痛いの」

鋭い爪を伸ばし、一本だけ指をたたせる。

「そして、2つ目は、」

大王を壁まで追い詰め満面の笑みで告げる。

「耐えられないほどに、」





「苦しいの」







大王がひくりと震え、唾を飲んだ音が聞こえた。



まぁ、この辺でやめてもいいのだが、動けない状態で弄ばれた屈辱を晴らすのならとことんやった方が良いだろう、


カチカチになった大王の肩をそっと抱き寄せ、固い地面にゆっくりと押し倒す。




「さぁ、大王のお好きな方をどうぞ?」




耳元で優しく囁く、








シーソーゲーム
(今度は僕の番です)








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