「鬼男くん。」
仕事が終わり今日使った資料の片付けをしていたとき、後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「なんですか、大王。」
どうせまた大したことじゃないんだろうと踏んで、適当に返事をする。
「ねぇ、鬼男くんは俺が死んだらどうする?」
「は?」
てっきりセーラーがどうのとか、ツチノコがうんたらとか、アホみたいな話を予想していた僕は、一瞬その思考を停止した。
このアホはいきなりどうしたっていうんだ。
「なに言ってんですか、あんた殺しても死なないじゃないですか。」
小さくため息をついて返事をすると、大王はそうだけど、と言って自嘲めいた笑いを溢す。
本人だって分かっているのだ、いくら自分が死を望んだって、それが決して叶うことのない事である事ぐらい。
「鬼男くんはズルいよ。」
大王の顔が苦しさに歪んでゆく。
「俺は…」
君が死んでも、生き続けるのに、
「大王こそ、」
大王の深い紅色の瞳を見つめる。
「ズルいじゃないですか。」
「え、」
「僕に永遠はありません。でも、大王は永遠を約束できる。」
どれだけ強く願っても、僕は貴方の永遠になれない。
「大王は僕の欲しいものを持ってます。」
そんなのズルいじゃないですか。
そういって机の上に散らばった資料を集め始めると、大王がごそりと動いた。足音が近づく。
「へぇ、鬼男くんもそんなこと考えるんだ。君もまだ若いねぇ。」
「大王も同じようなこと言ってるじゃないですか。僕も貴方も似たようなものです。」
「うん、そうかも。俺もまだまだ若いのかなぁ」
若いうちは愛だの恋だの振り回されて堪らないね、鬼男くん
大王は笑って、小さくため息をはく。
憂いを帯びたその声が、僕の心臓をゆらりと揺らす。
どうして僕らはこうも報われない恋をしてしまったのだろうか、
時の流れが僕らを裂こうとするたびに、愛しい気持ちが溢れ、切なさだけが積もってゆく。
「僕は、愛だの恋だの下らない情には流されませんよ。」
だって、こんなの悔しすぎる、
「ふふ、そっか。鬼男くんは俺と違って大人だなぁ」
「…でも、」
大王に向けた背中が切ない温もりに包まれる。
あぁ、お願いだ、これじゃあ、
「俺は、どうにも耐えきれないや、」
叶わない幸せを、望んでしまうじゃないか、
求めて、望んで、
(あぁ、こんなにも貴方を欲しているのに)