僕だって男なんですよ?


「名前先輩。」
「あ、黒子君。」
おはよ、と優しく僕の前で微笑んだのは1つ年上の先輩。
名前先輩は監督と仲が良く、バスケ部のマネージャーを誘われて入ったといつか聞いた話を思い出す。
元々運動神経が良く、運動好きだった名前先輩は快く承知したそうだ。
それを悔しがっていた部活があったという話も聞いたことがある。
なにをしているんですか?と尋ねれば明日の練習の準備だよーと名前先輩はまた微笑んだ。
練習後の名前先輩の笑顔を見るだけで、まるで身体が癒されていくような感覚に襲われる。そして、それと同時に感じるのは、先ほどよりもドキドキと脈打っている心臓。
「黒子君達頑張ってるし、最近練習ヒートアップしたでしょう?ドリンクの消費量も多くって。」
「すみません…。」
「謝らなくていいんだよ?それにみんなが頑張ってる姿見るの好きだから。」
そう言って名前先輩はペットボトルをきゅっと強く締めた。
「そういえば黒子君は帰らなくていいの?」
「そろそろ帰るつもりなんですが、名前先輩が心配だったので待ってました。」
「えっ!そうだったの?!ご、ごめんねっ待たせちゃって!」
「いえ。僕が好きで待ってただけなので。」
「でもなんか申し訳ないっていうか…。」
「いいんですよ。名前先輩、そろそろ帰りましょうか?」
「うん、そうだね!」
ありがと、と笑う名前先輩に僕は思わず目を逸らした。
どうしたのと降ってくる疑問に慌ててなんでもないですと答えればそう?との不思議そうな顔。
名前先輩の笑顔に見惚れたなんて、言えるわけがない。特に、名前先輩の前では。
帰りにマジバ寄ろうか、黒子君好きだったでしょう?なんて何気なく僕の好みを覚えてくれる名前先輩にも思わずときめく。
ああ、僕は家に帰るまでにこの気持ちを抑えられるだろうかだなんてドキドキと脈打つ胸をそっと押えた。
時刻は夜の8時過ぎ。
ちゃんと名前先輩を家まで無事に送り届けるだろうか、送り狼にならないだろうかなんて考えてみたけれどきっと僕のような憶病者には無理な話だ。
僕がそんな葛藤を心の中でしていることも知らず、ニコニコと笑顔を向けてくる名前先輩。
分かってる。名前先輩が僕を男として見ていないことを。可愛い後輩として、僕を見ていることを。
それでもやっぱり僕は名前先輩を諦めきれないなんて、なんて後輩なんだ。
だけど僕は、いつまでも可愛い後輩でなんていたくはない。
ねえ、名前先輩。どんなに少しでもいいから、僕を男として見てくださいよ。


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