今はそれでもいいですけど


「名前先輩、送りますよ。」
「本当?黒子君、ありがとね!」
「いえ、あとそれからマジバ寄ってもいいでしょうか?」
「うん、もちろん!」
マジバのバニラシェイク美味しいもんねっと僕に笑みを浮かべたきた先輩は、僕がマジバでなにを買うのか分かっているようだった。
でもよく考えてみればシェイク意外頼んだことがない気がする。
僕は火神君みたいに大食いでもないのだから別に仕方がないことだと思いますけど。
「じゃあ私はストロベリーでも頼もうかな。」
「分かりました。じゃあ行きましょうか。」
「うん。」
未だ体育館に残っているメンバーに別れを告げ、マジバへの道のりを歩く。
その間に名前先輩は今日のパスのキレ、良かったよとかみんなとの息も合ってきてたねと話してくれた。
マネージャーの仕事をしながらなのに、名前先輩は本当によく周りを見ている。
確かに今日のパスはうまく回ってたし、だんだんみんなとの息も合ってきたのだから驚くばかりだ。
だから監督は彼女をバスケ部に入れたかったのだろうか。それとも偶然、なのか。
そんなことを考えているうちに目的のマジバにつき、名前先輩僕より数歩前に立ち、黒子君、と僕を呼んだ。
慌てて小走りで隣に立ち、店員に目的であるバニラとストロベリーのシェイクを頼む。
受け取ったシェイクの紙コップごしから冷たさが伝わる。
漂うほのかな甘い香りに僕は迷いなくシェイクを飲んだ。
もう飲んでると可笑しそうに笑われた僕は思わず顔を伏せる。
バニラの香りに耐えきれなかったのだから仕方がない。
隣でストロベリーのシェイクを受け取った名前先輩が席に座ろうかと笑い、いつも僕が座っている席に座れば名前先輩もストロベリーのシェイクを美味しそうに飲むのが分かった。
可愛いですね、なんていうければ名前先輩は冗談だと思っているのか少し照れたように笑うだけだ。
「黒子君って、なんていうかさらっとそういうこと言うから照れるなー。」
「そんなにさらっとは言ってないのですが…。」
名前先輩は、僕がどれほど勇気を振り絞ってこんなことを言っているのか知らないのだ。僕がこんなことをいう人なんて、名前先輩しか思い当たらない。
その間にじぃっとこっちを見る名前先輩と目があって、どうしたんですか?と尋ねれば1口交換しない?とのお誘い。
やっぱり、名前先輩は僕を男として意識をしていない。
嬉しいやら、恥ずかしいやらで僕の心中は大変だ。
でも一番感じるのは複雑な気持で、僕はなんでもないようにシェイクを差し出す。
それに目を輝かせた名前先輩もシェイクを差し出した。
心の中では、こんな可愛い後輩を演じてこんなことができるなら、なんてことを考えている僕がいる。
でも、僕だけがこんなにもドキドキしているのはなんだか悔しいとも思っている自分がいて、理不尽な自分が嫌になる。
名前先輩は、いつになったら僕を意識してくれるのでしょうか?
今は無理かも知れませんけど、いつかかならず、意識させてあげますよ、なんて性に合わないことを僕は心の中で小さく誓った。


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