第11話
あっという間だった
第11話
「サクラ、」
「侑士、ごめん。今日もでれないや」
最近サクラはなかなかでてこんようになった。いや、でれないらしい。
「木の寿命ももう近いの。だから、あたしが少しでも元気にしてあげないと」
次に会ったときは少し痩せとった。たまにでて来ては会う度にどんどん細なってんねや。このままサクラが消えてしまうんじゃないかと思った。
笑顔が痛々しくて、目を背けそうになった。
それにしても暑い。じわりと汗が吹き出す。
「侑士?」
「あ、すまん…ちょっと考え事しとった」
「悩みあるなら、このサクラちゃんが聞いたげるよ」
悪戯っぽく言っても心配してくれとるんは知っとるよ。それがサクラや。
「たいしたことないわ。それに今は自分の心配しぃや」
「はいはい、侑士は心配性なんだから」
「返事は一回やろ。ほな、そろそろ帰るわ」
「また、ね…」
「おう。またな」
それがサクラと話した最後の会話だった。
「サクラ、きたで」
いつもなら聞こえるはずの声が聞こえない。
嫌な予感がした。彼女がこのままこの桜の木と一緒に消えてしまうような気がした。
「サクラ…、っサクラ!」
何度名前を呼ぼうが、叫ぼうが返事が返ってくることはなかった。
そんな日が続いた。
俺は毎日呼びかけた。
けれど、あの日以来サクラの声を聞くことも姿を見ることもなかった。
最後に会ったとき彼女にはわかっていたのかもしれない。
あれが最後だったのだと。つらそうに笑うのは身体のせいだけじゃなかったんだ。
気付くのが遅すぎた。
ごめんな、サクラ。
なあ、聞こえとる?
もうなにも望まない。
君にもう一度あえるなら、なにもいらない
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