act.6
等価交換
今日はテニス用品を買いに行くため幸村くんと駅で待ち合わせしてます。
「早く着きすぎた……」汗
まだ待ち合わせ時間まで20分もある。待つのは嫌いじゃないし、そのままベンチに腰を降ろして待つことにした。
「すみません、道を教えてもらいたいんですけどいいですか?」
声をかけて来たのは30代くらいのサラリーマン。説明してもなかなか伝わらない。これでも、人からはわかりやすいって言われる方なんだけどな!
「途中まででもいいから案内してよ」
「あたし人待ってるんでごめんなさい」
「いいじゃん、ちょっとだからさ」
痺れをきらしたのか、あたしの手を引き無理矢理連れていこうとする。え、ちょっ…!!
「彼女が嫌がってるのがわかりませんか。それと人の女に手出してただですむと思うなよ、クズ」
さっきの人の手が振りほどかれたかと思えば、幸村くんの腕の中にダイブした。
笑顔がこわいです。は、迫力がすごい……。あ、逃げた。
「ゆ、幸村くん、ありがと」
「恐い思いさせてごめん。俺がもっと早く来てればよかった」
「あたしがちゃんと断らなかったのがいけなかったんだよ、気にしないで」
早く行こう、と言う彼女の手を握ってスポーツショップにむかう。
「でも、これから俺より早くきたらお仕置きね」
「なんでっ?!それとあああの、手!」
「わかったよね」
有無言わせない迫力に首を縦にふった。手繋いでることは、スルーですか。
それとさっきの人の女て…。助けるためとは言え、ああ!思い出したら恥ずかしくなっちゃったじゃんか!
ふふ、気落ちしたり、真っ赤になって慌てたり、表情がよく変わる子だな。彼女に興味がわくのが自分自身わかった。
スポーツショップにつけばラケットやシューズなど一通り必要な物を買った。幸村くんがいろいろアドバイスしてくれるからスムーズに買えた。
「ねえ、少し打っていかない?」
「早速買ったラケットを使いたいんだね」
「はは、ばれた?」
近くの公園にあるテニスコートで打ちあう。
ラリーが続く途中でもころころと表情の変わる高野さんを見てると、自然に自分が笑っているのに気付いた。
「幸村くんに頼んでよかった、今日は付き合ってくれてありがとね!」
「俺でよかったらいつでも付き合うよ」
「うん、そうだ!幸村くん、手だして」
素直に手を出せば、手の平にのったのはリストバント。
律さんの手にも同じ物があった。
「今日のお礼!
あたしじゃ不甲斐ないかもしれなけど、精一杯やるから。
ご指導よろしくお願いしますよ、幸村先生」
本当不思議な子だよ、君は。
「凄く嬉しいよ、ありがとう。
そうだ、ひとつ我が儘言っていいかな?」
「うん?あたしにできることなら」
「名前で呼んでほしいんだ」
え、そんなことでいいの?という彼女にうなづいた。
「じゃ……せ、精市くん」
「精市がいいな」
うっ、絶対この人楽しんでるよ!だってその証拠に今すっっごい笑顔だし!!
「律は、呼んでくれないの?」
「あ、いま……」
かああ、と顔が熱を持つのがわかる。絶対今赤くなってる。
な、名前呼ぶだけじゃない!なにを恥ずかしがる必要があるんだ、あたし!!
「せいい、ち……」
「うん、律」
下を向き真っ赤な顔のまま俺の名前を呼ぶ律。
今日はこれくらいで勘弁してあげようかな。
なにかが少しずつ
俺たちの中で
変わりはじめた。
110211
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