「ヒロくん、コーヒー入れるけど飲む?」

「あ、はい。飲みます」


あれから数日が経った。

俺は神原の言葉に甘えるがままに家事を手伝い、神原の話し相手になるだけの日々を送っていた。気付けばはじめは戸惑いがあったものの神原の性格というか人柄のおかげか今ではすんなりと話をすることができている。
相変わらずどうして学校にいけないのか、だとか詳しいことをいろいろ気になるであろうに神原は一切触れずに俺に接してくれている。まさか、ヒロくんなんてあだ名をもらうとは思わなかったが。


「はあ、久しぶりの休日だっていうのに呼び出されちゃ嫌になっちゃうわよねぇ」

「…お疲れ様です」

「ほんとよ、もう。まあヒロくんに癒してもらうからいいけどね」


この数日間で神原についてわかったことはいくつかある。


まずは職業。彼は俗に言うゲイバーのオーナーをしているようだ。神原はオカマ口調ではあるがゲイだというわけではなく、女性も恋愛対象に入ると先日カミングアウトされた。というのも彼の忘れ物を届けに行ったときに知ったのだ。
それから店は夜営業であるため日中は大体いるのかと思いきや、時たま知人からのヘルプをもらい仕事をすることもあるようで。まあ、だからといって何でもかんでもやるわけでもない。手先が器用、センスがあるということからそういったことが生かされる職の助っ人をしているらしい。

そして性格。普段オネェ口調で職業もあれなのだが彼は随分と男らしい。例えば俺が居候をすると決まった時、空き部屋にと寝具を配置することが決まったのはいいが宅配便が来た時に俺は荷物が重くて持ち上げることができなかった。しばらくまともな食事もしてなかったから無理もなかったと思うのだが、しかし重いそのダンボールを彼はいとも簡単にひょいっと持ち上げてしまったのだ。
それに手先は器用だと述べたのだが料理に関しては俗に言う男の料理である。それから彼は甘党で、しかし多少タバコは吸うし飲酒もする。まあ酒に関しては職場のバーテンダーが作るカクテルが主で家でまで飲むことは滅多にないようだ。


「どう、ヒロくん。この家で過ごすのには慣れたかしら?あ、まずは私と過ごすのがって聞くべきかしら」

「慣れたとかの前に、俺、本当にお金払いますよ。ちゃんと働くところも探して…」

「まぁた、そんなことばっかり気にしちゃって。お金のことは気にしないって約束したじゃない」

「でも…」


数日、されど数日も食べさせてもらって寝る場所を分けてもらえて。そんなにもありがたいことをしてくれている神原に自分は何も返せていない。家事だって手伝ってはいるがすべて任されている訳じゃないし、やっているのはほんの一握りだ。いつまでもこのまま居座るわけにはいかない。自分は高校中退という肩書を持ってしまっているが、それでも働くということができる年齢だ。新聞配達だろうが何だろうが働けるのだ。

そんな思いが通じたのか、やがて神原は仕方ないわねぇと苦笑いしながらもポンポンと俺の髪を撫でるように触れる。


「なら、私のお店でお手伝いしてもらっちゃおうかしら。それなら私も安心だしね」

「え…っ、いいんですか」

「私は大歓迎よ?心配なのは馬鹿がヒロくんを襲おうと考えるんじゃないかってことかしらね。まあでも、みんなルールを守っているから大丈夫だろうけど」


どう?そう聞かれて真っ先に頷いた。どんな形であれど、神原のために何かできるのであればと思うのだ。代わりに、バイト代はいらないときっぱりと告げる。どうして、そう聞かれても居座らせてくれているだけで十分なのだとはっきりと申し出て話を終わらせた。



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