「どうぞ、いらっしゃい。今からタオル持ってくるから待っていてちょうだい」
着いたマンションは建てられたばかりなのか綺麗な外見で、部屋に着いてみても玄関からして明るく綺麗に整っていた。神原の趣味なのか、大空を映した写真が額縁で飾られていた。
渡されたタオルで髪から滴る水をすいとるように拭い、洋服もポンポンと叩くように拭き取っていく。
しかし靴下まで濡れてしまっているのを考えると、このままでは上がれない。そもそも自分は彼についてきてしまって大丈夫なのか、なんて今更ながら考えてしまう。
「…あら、どうしたの?」
「………靴下が、」
「ああ、濡れちゃってるのね。問題ないわよ。そこで脱いで軽く拭いたら、このスリッパ履いていらっしゃい」
優しく微笑みかけてきた神原は、まだ濡れてるわねと言いながら新しいタオルで俺の髪を簡単に拭った。
言われるがまま靴下を脱ぎ、タオルで足を拭いてから戸惑いがちにスリッパを履く。そして案内されるままにリビングに行った。
どこかモデルルームをも思わせる部屋は神原のセンスがいいのだろう。そこに通されると待っていて、と神原が別の部屋に消えてから再び現れると腕には衣類が抱かれていた。
「お風呂に入らなきゃ風邪を引くわ。ほら、これ新品だから安心して着て?」
「え、でも…」
「いいから、ほら。お風呂場はこっちよ!ほらほら、入りなさい」
風呂場に押し込まれた俺は仕方なく服を脱ぎ始める。張り付くように濡れた衣類を脱ぐのは何というか気持ちが悪く、脱衣場にある洗濯機の中に放り込む。
途端に寒さが込み上げてきて、急ぎでシャワーを出した。じんわりと温かいお湯が体に染み渡り気持ちがよかった。
* * *
「あら、出たのね。…って髪まだ濡れてるじゃない。乾かすからこっちにいらっしゃい?」
「あの、お風呂に着替えありがとうございます」
「いいのよ。ちゃんと暖まれたかしら?」
ブオーッという音と共に熱風がそこから出てくる。優しい手付きで背後から乾かしてくるのが気持ちよくて、ついうとうとしてしまうと神原にそれが伝わってしまったようでクスクスと笑われてしまう。
「はい、乾いたわよ。あなた、綺麗な顔をしているのに前髪に隠れちゃって勿体ないのねぇ」
「き、れい…?なあ、アンタ目おかしくない?」
「あら?何よもう、可愛くないわねぇ」
「だって、綺麗っていうのはアンタのためにある言葉なんじゃないの」
そう伝えると神原は一瞬きょとんとしながら固まり、しかし次の瞬間には先程と打って変わり大きな声で笑い出したので逆にきょとんとしてしまう。
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