歯車が狂う音がした

授業では二人一組で行動をすることが何度かある。それはくじ引きだったり自由だったり、その時によって違うのだが今日の授業は自由に決めていいらしい。またサボりを決め込もうとしていた冬真の前に現れたのは立夏で、一緒に組みたいのだと必死に訴える彼が泣きそうで仕方なく授業に参加することにした。


「…はぁああっ!」


手を目の前にかざし、神経を尖らせる。冬真は攻撃を水で弾き、片手を振りかざせば脳裏に浮かべていた氷の刃が現れて目の前にいた魔物を一掃した。魔物は倒れると光となって消失する。それは浄化とも言われていて、それを見届ければようやく安心が出来るのだ。


「やっぱり冬真くんはすごいなぁ…それに、綺麗だもん」

「…ありがとう」


立夏は大きな力を持つ夏の一族ゆえに、暴走を恐れて思い切って術が使えない。それは一族にとって当たり前のことではないが、それでも仕方がないのだということで学園に通って制御を学ぶのだ。こうして自由にペアを組んで浄化の授業をするときには決まって立夏は冬真を選んでいた。
というのにも理由がある。火に相対する力は水である。即ち夏の一族の暴走は冬の一族がいることで最小限に抑えられるとも言われているのだ。だから昔から二つの一族は関わりが強く、歳の近い二人もまた一緒にいることが多かった。と、言うよりは二人の場合、立夏が冬真に懐いたからこそ必然的にそうなったのかもしれない。


「でも立夏も制御上手くなってる。だから大丈夫」

「と、冬真くん…えへへ、ありがとう」


珍しく他人を褒めた冬真に嬉しくなって立夏はにやけた。頬を赤く染めてもじもじとする姿は可愛らしいが、それよりも早く冬真は授業を終えたかった。家に帰っても楽しいことはないから、また秘密の場所で寛ごうかな。そんなことを考えていると背後からずしりと重みが加わる。


「冬真、それに立夏も。調子はどうですか?」

「春哉くん…それに、秋人くんも。怪我もないから順調だよね、冬真くん!」

「…二人がペアだったんだ」


冬真に重いと押し退けられた春哉と楽しそうに話をしている立夏を眺めながら、会いたくなかったなんて思わず考えてしまう。どうにかして秋人を視界に入れまいと近場にあった木に寄りかかって空を見上げていると、秋人から声がかけられた。


「…おい。お前は大丈夫なのか」

「何が…?」

「だから…体だよ」


からだ、そう呟いて自身の胸の辺りを鷲掴んだまま首を傾げた。どこか痛むかと言われれば全く、これっぽっちも傷付いていない体だ。疲れたかと問われれば術を使った直後なのだから多少は疲れているが、気になるほどではない。


「お前、何にもわかってねぇのか…?…おい、後ろっ!!」

「え?」


呆れたような表情をしたかと思えば、くるりと表情が一転して焦ったような顔をする。そんな秋人に勢いよく腕を引かれて彼の胸元に顔を思いっきりぶつけてしまって多少鼻が痛んだ。


「え、何事?!」

「ちょ、ちょっと待ってよ…こんな大きいの見たことがないよ!」


目の前には今まで見たことがない、一目見ただけで凶悪なものだとわかる心の闇の塊に彼らは足がすくんでしまう。逃げるが勝ちだ、そう言った秋人が高く壁を土で作り出してその魔物の進路を塞ぐ。強く引かれたその腕は痛みに悲鳴を上げそうになったが、懐かしいその体温が離れたくないと思う自分もいて。複雑な思いのまま走り続けること数十分。ようやく学園に戻ってきた彼らは教師たちに報告をした。


「あの場所はもう行けないわね…結界を張っておきましょう。私は学園長と話してきますね」

「社さん、お願いします」


四人の担任でもある社千代は冬真と同じく冬の一族の者であるが、家系で言えば遠い親戚のようなものだ。冬真の家が本家であるのに対して、彼女の家はいくつかある分家の一つなのだ。彼女は攻撃こそできないが光と水による屈折を利用した幻術などを得意としている。結界というのは四季の能力でも特別なもので、一人でもできるが四季家が揃うことでより強力なものとなる。それを使えるのは一族の中でも僅かであり、冬真の身近で言うと自身の母親と春哉、社くらいであろうか。


「あの魔物、何だったのかな…すごく、怖かった…」

「んなことで泣くんじゃねぇよ、立夏。そうだな…帰って爺さんたちに聞くか」


学園に戻ってみるとその魔物を目撃した生徒は数多く、持ち切りの話題となっていた。不穏な影が忍び寄っているかのようだ、そう零した春哉の言葉通りにならなければいい、そう願いながらもチクチクと痛む耳の後ろに気づかないふりをして冬真は目を閉じた。

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