偶然か、必然か

「はい、みなさん席についてください」


生徒が集まり授業が行われる前にはHRがあるのだが、この日は幾分か社の顔が強張っているのが見えた。どうやらよからぬことが起きそうだと、うんざりとした表情を浮かべながら毎度のように机に伏せる。
どうせ最初の授業は魔術には関係のない一般教養で、毎回のように十分にも満たない時間で寝てしまうからと眠りにつこうとしたのだが“転校生”という単語と騒がしい声に意識を浮上させることになる。


「おれは菅谷雪路、雪路って呼んでくれ!」

「……おい、冬真…あいつってお前の家にいた…」


秋人が冬真の方を振り向いて小声で話し掛けた時、それを遮って菅谷が声を上げて冬真に駆け寄ってきた。何でこっちに来るんだとか、静かにしてほしいとか言いたいことはたくさんあるのだが菅谷に言ったところで願いが叶うはずもないと何となく察してしまう。


「おい、冬真!ここにいたんなら最初から教えろよな。お前がどこにもいなかったから探したんだぞ!」

「……何で、ここに?」

「せんせー!俺、冬真の隣がいい!!」

「聞いてないし」


というか隣に座られたら絶対に睡眠時間が減ってしまう、そんな予感がするから止めてほしいのだが困った顔をしたまま社に頭を下げられてしまっては従わずにはいられなかった。


「よろしくな、冬真!」


何でこんなことになってしまったのだと頭を抱えたくなる。仕方ない、次の授業は別の場所でサボるしかないだろうとHR終了と同時に教室を飛び出した。勿論追い掛けようとしたらしい菅谷は巻いて走り去る。

息切れをしながら音楽室で机を背に寄り掛かっていること数十分、ガタガタ音が聞こえてどうしたのだろうかと見渡せば自分を探していたという社がいた。


「千代さん、どうしたの」

「冬真くんに聞きたかったの。…菅谷くんのこと」


成る程と秋人に伝えたことを簡単にまとめて説明をすれば、何だか難しそうな顔をして社は座り込む。


「お義兄様…いえ、当主様から菅谷の子を頼むと突然言われたわ。あの方も菅谷くんが駄々っ子のように暴れたから仕方なく入れたみたい」


社は疲れたといったように顔を腕の中に隠しながらため息を吐く。彼女が冬真の父をお義兄様と呼ぶのには理由があり、実は冬真の母が社の姉にあたる人物だからだ。社家といってもその中でも分家があるわけで、彼女たちは本家にあたる社の娘なのだ。


「クラスも本来ならD判定…いいえ、それ以下よ?なのに冬真くんと一緒がいいと騒ぎ立てて学園長が特例を出したわ」

「……ご迷惑を、」

「違うわよ、そこは怒るところじゃない。いくら客人でも厳しくしなさいって。それに冬真くんは被害を受けた側よ」


まさか、そんなにも短時間で迷惑を振りまくなんてと頭がズキズキとした。どうせ関わらないのだからと家を出たときには忘れようとしていた存在が、今では嫌なほど記憶に残ってしまうではないか。
クスクス笑いながら話したと思えば次には真剣な顔をする社につられて、珍しくピンと背筋を伸ばす。


「菅谷家が滅んだ時期と魔物が増えた時期がね、結構近いのよ。まさかとは思うけど偶然でもなさそうで」

「母様には?」

「まだ言ってないわ。だって予測でしかないもの。でもね、冬真くん。あの子には近付かない方がいいわ」


とても嫌な予感がするの。
そう話した社の顔は青白く、とても嘘をついているように見えない。それに、彼女が嘘をつくわけがないと知っているからこそ余計に身構えてしまう。


「無理はダメだからね?」


そう言い残して去ってしまった後ろ姿を見つめては、次の日なんて来なければいいのにと夢の世界に旅立っていった。

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