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夜、秘密と傷と

(※3期 オーストラリア戦後、韓国戦より前の時間軸設定です)


「お前、それ、やめろよ」

そう放たれた言葉は私の腕を指さしていた。
手首と肘の丁度中間部分。適当に貼った絆創膏は血が薄ら見えている。けど、それを指摘されるのは予想外だった。

「私欠かさず長袖着てるんだけど…」

返事になってないと言わんばかりに不動が私を睨む。不思議なことに、イナズマジャパンに参加して一番最初に打ち解けたのが不動だった。戦術サポーター。いわば目金くんと同じタイプでイナズマジャパンに参加することにはなったけど、全員初対面だったわけで。久遠監督にひっついているうちに私も訝しく思われていたような中で、「監督の犬」なんてディスりながらも構ってくれたのは不動だった。今はそんな誤解は解けて皆ともそれなりにやれてはいるけど、なんだかんだ不動と話すのが一番楽しいかもしれない。

「隠し方が下手くそなんだよ、庇いすぎてそこになんかありますって言ってるようなもんじゃねえか」

「えっマジ…??」

そんなに私バレバレだった…?一瞬血の気が引く。

「あいつらは間抜けだから気づいてねーよ」

私の焦りを察知したのか、フォローが入る。まあ、監督は気づいてるだろうがよと一言付け加えて。それは、まあ、いいんだけど。

「いや、にしてもそれはエスパーすぎ…あ、もしかして、見えた?」

「まあな」

うげ、やらかしていたらしい。見てて気持ちの良いものでは無いから気をつけなきゃいけないと思っていたんだけど。うーん、もうちょっと気をつけなきゃ。

反省をしていると左手首を掴まれて、袖をまくられる。血が少しついた、2枚の絆創膏が露になる。

「えっちょっ…」

「1回見たんだから、今更だろ」

「んな横暴な…見てもいいことないじゃん」

やめようよ、と続けるより先に絆創膏が引っ剥がされる。血は止まっていたようで、赤く滲んだ何本かの線と、白く残った過去の線がある。なんだか自分の弱さを見せつけられた気持ちになって、恥ずかしいような惨めなような、傷口から目を逸らした。

「やめとけ、もう」

最初の声とは違った、変に弱々しい声だった。そんな声が不動から出るとは思ってなくて、動揺して、視線が泳ぐ。それでも不動はじっと私の方を見ているのだ。

「や、やめられる自信がない…」

お守りと化してしまっているのだ。自分を守るための。だから、やめられる自信が正直言って、ない。不動の顔を見てそう言えば、不動は一瞬なにか言いたそうな顔をしたけど、何も言わなかった。

「不動って実はめっちゃ優しいよね」

「あ?」

「皆が今の不動見たら目を疑いそう」

我ながら心配してくれている不動に対して酷い言い草だと思う。けど、そんな軽口を不動は許してくれる。

「うるせえよ」

そう言って優しく袖を直してくれる。

「…めんどくさい女だって、思う?」

「めんどくさいのはお互い様だろ」

ケロッと返す不動に思わず笑ってしまった。確かに、私も不器用だし不動も不器用だ。お互いめんどくさいのも納得出来る。

「そうやって笑ってたらいいんだよ」

「うぇ?」

「アイツらの前でもそうやって笑ってりゃいいのに」

「そんなに表情固い?」

「嘘くせえんだよ」

気を使っているというか、馴染みきれない感じがしていた。不動はやっぱりよく見ていて、鋭い。それはオーストラリア戦の練習禁止の時からわかっていたことだけど。それでもこうやって言葉にしてくれるということは、気にかけてくれているんだろう。

「不動いればそれでいいよ」

まあ、自分でもびっくりするくらい閉鎖的。でも、実際自傷するようなめんどくさい所も、ヘラヘラ笑ってるところも、不動が知ってくれていればそれでいい。

「趣味悪…」

「お互い様では?」

「うっせえ」

呆れた顔を見せる不動に笑って見せれば不動もフッと軽く口角を上げる。変な関係だと、つくづく思う。でも、この居心地の良さがそれでもいいと思わせてくれる。

「ねえ」

「あ?」

「傷、やめられるかはわかんないけどさあ、またしたら怒ってよ」

怒りながらも受け入れてくれると有難いんだけど、と小さく続けた。我ながら傲慢なお願いである。

「めんどくせえ」

そういった呆れ顔は、酷く優しかった。




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