災難は幸福の始まり03
結論から言って、写真を送ってからもう返信は来なかった。多分相手が不動だったからじゃないか、と私は少し思っている。そもそも直接話しかけられない時点でなんとなくお察しである。ようはいつもと同じ平穏な日々が私に返却されたということで。
「オイ、名字」
「あ、おはよー」
ただひとつ変わったこととと言えば不動と話すようになったこと。最初クラスで不動と話した時の友達等の驚いた顔は正直忘れられない。とても面白かった。
「お前呼んでる奴がいるぞ」
「へ?」
不動がスッと指さした先…教室の入口を見れば。見れば。身体が固まった。いやいやいやいや待ってくれ。待ってくれ。私を呼んでいると言うやつは例のアイツであった。
「待って待って待って不動」
自分の席に帰ろうとする不動に小声で呼びかけると不動は多少不機嫌そうに振り返ったが私の顔を見てなんとなく察したみたいだった。そんなひどい顔してるのだろうか、冷や汗が止まらないのは事実ではあるのだけれども。
「アイツか?」
短く素早く端的に。不動くん素敵。こくこくと頷く私を見て不動は私の腕を引っ張って教室の入口へとズンズン進んでいく。焦りと驚きと動揺で思考が停止している私はされるがままでパッと腕を離された時には目の前にはアイツがいた。でも横には不動がいた。大丈夫。
「何か用?」
教室の入口から廊下へ出た。冷静は装えたと思う。多分。わからないけど。アイツは答えるでもなくチラチラと不動の方を見ていた。
「なんでいるんだ、って言いたげだなァ」
不動が凄めばアイツ…いやまあ目の前にいるからコイツか、コイツは図星だと言わんばかりに怯んだ。怯んだコイツを見て不動は鼻で笑って口を開く。
「なんでか教えてやるよ」
ぐいっと引き寄せられたと認識した時には既に抱きしめられていた。私の身長が低いせいで手を添えられた私の頭は不動の胸の位置にあった。混乱する頭の中ではっきり聞こえる不動の心臓の音。
「で、言いたいことは?」
私は不動の胸の中にいる故アイツの反応は見えないけれどバタバタと駆けるような足音が聞こえたから、きっと何処かへ行ったのだと思う。
スッと不動が腕の力を緩めた。それに合わせて私も不動から離れる。人の心の臓の音は心地よい、だからだろうか。少し離れたくないと思ってしまった。
「うわ、顔真っ赤」
「うるさい」
言われて慌てて顔を隠したけれどもう遅い。柄でもない、恥ずかしい。その想いが余計顔を赤らめるのがわかる。おさまれ、おさまれ。そう念じてもどうもおさまる気配はない。
「かわいいーネ、名前チャンは」
そう言って不動が私の頭を撫でた。
ああ、くそ、カッコイイと思ってしまった。
私が不動を好きになった瞬間だった。
←|back|→