「…で?」
奈良くんに「逃さねえ」とでも言うような目で見られ、到着した近くのファストフード店。
店員さんからスマイルと共に飲み物を3つ受け取った奈良くんは、席に着くと頬杖を付いて言った。
「で、と言われてもな。ん、このコーヒー予想よりうまいぞ」
「おいてめえ」
会話する二人を他所に、私は少しかたいシェイクをすする。
めちゃくちゃ甘いはずなのにあんまり甘く感じないのは絶っ対にこの状況のせいだ!ネジ先輩め!でもシカマル間近で見れるのはちょっと嬉しいぞ!
「あーー千歳、どういうことだ?」
「えーと、つまりネジ先輩は“前”の記憶があって…私は、奈良くんが忍者だったのを知ってるって…こと…です?」
「まあ、そういうことだな」
「ネジ、てめえな…」
ため息をついた奈良くんは、それでも少し嬉しそうだった。うわーちゃんと“奈良シカマル”だー!ニヤけそう。
「冗談だ。ところでシカマル、こいつの“前”を知ってるか?」
げ、
「千歳ケイ…いや、知らねぇな。少なくとも木の葉の忍びにゃ心当たりはねぇし、砂でもねぇだろ」
「あー…」
でしょうね… うっ、私の“前”が忍者だって一言も言ってないんだけどな…
「…なんだよその納得した顔」
「いや、まあ、そりゃあ…知らないよなー、と」
「ん?」
首を傾げたネジ先輩に、一息ついて説明する。
「私の“前”、忍者じゃなくてですね、“ここ”とほとんど同じで、ナルトっていう漫画があるとこなんです」
「…ん?まて千歳。ナルトが漫画?」
「えっと、うずまきナルトが主人公で…こう、努力して仲間増やして夢を叶える、みたいな…?」
「ふむ…ナルトが主人公か…まあらしいが…」
どこか納得しきれていないネジ先輩が腕を組むと、眉根を寄せたシカマルが躊躇いがちに口を開いた。
「…あーっと、ちょっと待て。つまりお前は……例えば、中忍試験でネジがナルトにぶっ飛ばされたのも知ってるってことか?」
「うわ!流石シカマル!我ながら意味分かんない説明したと思ったのに!地面からアッパーでしょ知ってる!あのシーンすっごい好きだった!」
「ああ、なるほどそういうことか… まて千歳、なぜそれを初めに言わなかった!」
「訂正出来なかったし説明出来なかったんですよ…!シカマルいるならいけると思って」
「シカマルほどじゃないが俺だって頭はキレる方だぞ!」
「いやいや先輩には話すつもりだったんですけど…!正直シカマルいるなら楽かなーって思って!IQ200だし!ちょっと怪しまれてたし!」
「…そうなのか?シカマル」
「いや…ナルトかサスケが好きなのかと」
「え、いやいやそれは無いって。だってあの二人ヒナタとサクラいるじゃん?」
「まて、ヒナタ様とナルトはうまくいったのか?というかサスケは大丈夫なのか?」
「あ…」
地雷踏んだかも、と思い口をつぐむと、シカマルは顔をしかめるどころか、いたずらっぽくニヤリと笑った。
なるほど、驚かせるのが楽しみだったりするのかな?
「あー、そうだな。追々説明する。まあとりあえず、サスケは里に戻ってサクラと落ち着いたし、ナルトは火影になって、ヒナタと結婚した。これでいいか?」
「…ああ、ありがとう、シカマル」
「まあ後は本人たちに聞けばいいだろ。…女子は記憶ないみたいだがな」
「あ、やっぱり?でもヒナタちゃんナルトのこと好きっぽいよー?」
「やはりか…まあナルトもヒナタ様のことを思ってるなら言うことはないが…」
「あーその辺は心配すんな。ナルトもサスケもベタボレだっつーの。片思いが楽しいらしいぜ」
「ほほう…ふふふ」
「なるほどな…千歳、その顔やめろ」
引き気味の二人にあえてニッコリと微笑んでからシェイクをすする。うん。めっちゃ甘い!
「で…めんどくせぇがネジ、千歳。お前たちはこれからどうする気だ?」
「ん?どうするって?」
「ナルトたちに伝えるか?」
「俺は構わない」
「私はパスで!!部外者ですし!」
「クラスメイトは部外者じゃねーだろ」
「時間の問題だと思うがな」
「うっ…」
「あーあ…めんどくせーことになったぜ…」
机に突っ伏したシカマル…奈良くんと、素知らぬ顔でコーヒーに口をつけるネジ先輩に、ゆるゆると顔が緩んだ。