※CC神羅時代






「なぁ、」
「ん?」
夜。雨が降ってた。さぁさぁと、静かだけど、少し激しい雨。
何をするんでもなく、当たり前のように俺はザックスのベッドの上に膝を抱えて座って、ザックスも俺の隣に座って。梅雨で暑い時期なのにも関わらず、二人でシーツをすっぽりと被って。
密着した肌と肌だけが、妙に熱くて。
「ザックスはさ、」
「うん」
そんな奇妙ともいえる光景。でもザックスは当たり前のように隣に居て、俺の頭を飽きることなく撫でてくれている。俺もザックスの肩に頭を凭れさせて、カーテンが開け放たれた窓から零れている微かな明かり(といっても雨が降っているから本当に微かな光しかない)で照らされたベッドの先をぼんやり見つめながら、静かに言葉を紡いだ。
「常に生と死が隣り合わせの所に居て、怖くない?」
我ながら馬鹿な質問だと思った。ソルジャー以前に、軍に身を置くということはそれを覚悟した上で入るということなのに。今更そんなこときかなくとも、考えれば解ることなのに。
でもザックスは、やっぱり俺の頭を撫でながら、静かに息を吐いてこう言った。
「そうだな、怖くはねぇな」
本当に静かな声だった。朗々とした低い声。質問に対しての解答は、嗚呼やはりなと、思わせるもので。俺は目を細めながら、さらに自分の膝を抱き寄せる。
「ソルジャーはさ、人間じゃないんだ」
「…うん」
ザックスは、ソルジャーでありながらソルジャーを否定するようなことを時々言う。俺にはその言葉の意味が正直よく解らない。ザックスとは全然違う立場に居るから。そしてザックスも、深くは語ろうとしないから。だからこちらから聞くような無粋な真似はしないし、本能的に聞いてはいけないことなんだなと、思った。
俺自身のひがみもあるんだと思う、だから、ザックスの言葉は、理解できない時がある。
「人間であることを棄てた時から、恐怖っていう感情自体、どこかに置いてきちまったよ」
くしゃ、と髪の毛を掻き混ぜるように撫でられた。そうして、強く俺を抱き寄せて髪の毛に顔を埋められた。ザックスが深く息を吸う。苦しいのだろうか、ザックスが縋るように、俺を強く抱きしめる。
「でもな、生と死が常に隣り合わせってことよりも俺にとって唯一怖いことが一つだけあるんだ」
「うん」
「お前が、いつかどこかで消えちまうんじゃないかって考えると、すげぇ怖い」
「…うん」
「ソルジャーは、頑丈なんだ。ちょっとやそっとじゃ死なないし死ねない。けれどお前は、普通の人間だ。流れ弾一つに当たっても、死に至る危険性がある。俺の知らない所でいつかお前が消えちまったら…俺は、どうなるんだろうな」
――――そんなの、俺だって知らないよ。
そう言ってやりたかったけれど、あまりに強く抱きしめられたものだから苦しくて言葉にできなかった。代わりに、ザックスの背中にそっと腕を回した。肌と肌が更に密着して、熱を伴う。
とさり。と、静かに押し倒された。でも抱きしめられたまま、ザックスは俺の首筋に顔を埋めたまま動かない。密着しているから、ザックスの呼吸と、鼓動が伝わってくる。
「ザックス、」
「………」
「俺は、怖いよ」
怖くない訳ない。覚悟を決めていたって、死ぬのは怖い。ザックスが任務に行ってしまった後、待っているのが怖い。ザックスと過ごした非日常のような楽しい日々が、居なくなることで日常に変化してしまうかもしれないことが怖い。ザックスの居ない世界が怖い。俺自身、独りで逝くのかもしれないと思うと怖い。恐れてばかりで、前に進めない弱い自分。
そんな俺に勇気をくれたのは、間違いなくザックスだ。
「怖いよ、ザックス」
「…あぁ」
「だから、」


――――い か な い で … ッ


口に出してはいけない。
歯止めをかけなきゃ。
言ってしまったら、きっと俺は理性を保てない。
この人の枷になっちゃいけない。
だってザックスは、神羅が誇る生物兵器だ。
俺なんかとは、立場が全然違うんだ。
でも、でも、我が儘な俺の欲望が、いつもこんな時ふつふつと沸いて出てくるんだ。
「クラウド…」
ザックスが俺の名を呼ぶ。それだけで昔は満たされたのに、薄汚い俺はもっととねだってしまう。だから背中に回した腕を今度は首に巻き付けた。
一つだけ、許してほしい。
これだけで良いから、他には何も望まないから。






どうか、どんな時でも、ザックスが無事に、俺の所へ帰ってきますように。






目を閉じて、雨の音とザックスの呼吸を感じながら、俺はただそれだけを願い、祈った。











行かないで




2011/06/08


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