すき焼きの材料を買って家に帰ると隆二から少し遅くなるってLINEが入った。道が混んでるからって。隆二と二人だった時はこんなことあんまりなくて。岩ちゃんが来てから隆二が仕事で遅くなることが増えた。…他に女がいることは分かってる。だから岩ちゃんがきてちょうどいいってことだと思うと何だか悲しい。だったら私を捨てればいいのに。
「雪乃さん?どうかした?」
手を止めていた私を見て首を傾げる岩ちゃん。こんな時に限って哲也さんの黒い声が頭をこだまする。
「岩ちゃんって、どんな人が好きなの?」
「…え、すきな人?」
聞き返されたことで、自分が何聞いてんだかって恥ずかしくなる。でも、私を見て見つめる瞳はあくまで優しくて真っ直ぐで…「ほおっておけない人…かな。」私を抱きしめるでも触れるでもないのに、何故か身体の奥がカアーっと熱くなった。ただ見つめられているだけなのに、岩ちゃんの視線は全部を破壊するようで…。
「それって愛?」
「愛だよ。でも本当は、俺を見てくれる人。外見じゃなくて中身の俺自身をちゃんと見てくれる人がいいです。」
「外見で判断されがちだから?」
「そう。イメージじゃないとか。どんなイメージだよ俺?って思う。至って普通の男だから。特段面白味もないような、ね。」
「でもきっとそういう人が一番幸せにしてくれる気がする…。」
「それ、隆二さんに失礼でしょ?」
「あ、そうだった。私は隆二だよ。一般論ね?」
「はは、そういうことにしておきます。」
さわやかな笑顔の下を、見てみたいと思い始めたのはこの頃だったのかもしれない。
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