大人のクリスマス
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「クリスマスのシフト、埋まったの?」
…苦笑い。
映画館勤務の私。仕事は大変だけどそれなりにやりがいを感じている。
だけどこの時期のシフト作成は毎度頭を唸らせるハメに。
「なんで、なんでみーんな揃いに揃って3日間バツなの?見てくださいよ直人さん、接客業で働く人としてやる気なさすぎませんか?」
「まぁねー。まぁでも大学生のクリスマスなんて、今しかないからねぇ。」
後ろからシフト表を覗き込む直人さんは、私がセクションリーダーをしているオフィスの担当マネージャー。
誰にでも優しくて面白くてお茶目な直人さんはマネージャーの中でも一番の人気者だ。
バイトやパートさんの中でも直人さんを気にしている子はいそう、だよなぁ。
かくゆう私も、密かに気になっているものの、恋って呼べるものではなく、今だに恋という乗り物に乗れずにいたりするんだ。
「そんなぁ、大人だってクリスマスを楽しみたいです!」
「へぇ!ゆきみもそんな風に思うんだ?さては好きな男でもできた?俺をさしおいて、誰だ?」
「…誰って別にいませんよ、好きな男なんて。」
「お前なぁ、もっと楽しめよ人生を。」
「直人さんは?直人さんこそ、今年は、」
「俺はいーの。あ、なんなら俺と過ごす?とびっきり大人で甘ーいクリスマス!どう?過ごす?」
パチってウインクしてドヤ顔で自分を指差す直人さん。
思わず想像する、直人さんと過ごすクリスマスを。
チビだけどスーツなんて着ちゃって、車なんて出しちゃって、イルミネーション二人で見に行って、手繋いでお台場から海見て、ホテルのスイートで…
「マジで想像してた?」
ポスっと頭に直人さんの手が乗っかる。クスって笑った瞬間、トランシーバーでフロア入口から呼び出された。
【マネージャーとれますか?フロア入口立花です。】
「はい、片岡。どーした?」
【入口までお願いします。】
「すぐ行きます。」
シーバーを胸ポケットにしまうと、直人さんはいつも通りの笑顔でオフィスを出て行った。
やっぱりなんか胸の奥がくすぐったいのは、恋に近づいているの、だろうか?
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