耳元で「運命のヒト」 

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「…う、まっ!え、なに、最近のイケメンは歌もうまい、わけ?」


大人数の為、パーティールームを貸し切っての盛り上がり。土日の二日間頑張った翔ちゃんは、最後の最後でお金の計算が合わなくて苦戦していたけど、今は笑顔でよかった。

シレっと翔ちゃんの隣に座ろうとしたものの、朝海ちゃんに止められて、隣に来たのはそう…藤原樹。

もしや彼がわたしの運命の相手?


「北人さん歌っちゃうとめっちゃモテます。」


先日二十歳になったばかりだっていう藤原くんはクールな印象だったけど、お酒が好きな様子。

朝海ちゃんは、わたしをほおって川村くんの隣をゲット。それから喋ったことない!ってプロジェクションの二人を傍に置いて楽しそう。

マイコは、コンセの青山くんの隣で、彼の歌声にちょっと酔いしれていて。反対側には安定の長谷川くん。彼はまだ未成年でウーロン茶。

カラオケなんていつも、隆二くんのおハコで、彼の癒しの声を聴くだけだったわたしだけど、


「一ノ瀬さん、歌わないんですか?」


何故か耳元で囁くように言う藤原くんにさっきから変な汗すらかいてるわたし。ただでさえ綺麗な顔してるんだからなるべく近づかないで欲しい。

トサカとはまたちょっと違う系統のイケメン。


「わたし、聴くの専門。」

「音痴?」

「言うねぇ。そうだよ、だからダメ。」

「じゃあさ、」


そう言うと藤原くんは何故かスっと距離を詰める。完全に足くっついてるよね?


「俺の耳元でだけ歌って。」

「…酔ってる?」


わたしの問いかけにヘラって笑った。だけど次の瞬間ぐいっと腰に腕が回って…「はい、どうぞ…」って。

どうぞって言われてもどうすりゃいいのかわかんない。

マイクを握ってるのは川村くんで、曲はEXILEの「運命のヒト」…。え、これを耳元で歌えと?

チラっと見ると藤原くんはトロッとした目で耳をこちらに向けて待っている。

嘘でしょ。


「あのわたし、無理だよ。」

「じゃあお手本。」


甘く吐息を吐いた後、わたしの耳元で小さく歌う藤原くんに超絶ドキドキする。

なんかもうここがカラオケボックスだってことと、新人歓迎会だってことも何もかもが吹っ飛びそう。

だけど見てる朝海ちゃんがしっかりと。大きな目を開けてそれからゆっくりわたしに向かって親指を突き上げた。

「イケ!」って、無言の合図に首を振ると反対側のマイコと目が合った。

青山くんとケラケラ笑いながらも小さく頷くマイコにも首を振りたくなる。

だけどグイッて藤原くんの腕が伸びてきて今度は視線を合わせられる。


「俺に集中して、ゆきみさん。」


…名前で呼ぶとかずるい。

朝海ちゃんに何しこまれた?バイト代でも貰ってるの?なんて疑問は一瞬で吹っ飛ぶ。


「壱馬さんの歌よりゆきみさんの歌が聴きたい。」


藤原樹はずるいと思う。心の片隅にいたかもしれない直人さんがいなくなったような気がした。

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