バラバラ

【said 樹】

「ヒッ!、ギャッ!…もうやだ。」


膝を抱えてそこに顔を埋めるゆきみは俺から離れて反対側の壱馬寄りに座っていた。さっきキスしたことまだ怒ってんだって。壱馬はマイコや朝海と何があったか知らねぇけど、さっきから朝海にベッタリで、だからかマイコがすげぇ顔して壱馬を見ているのはちょっと可笑しい。いつも冷静なマイコだからこそ可笑しい。人の世話はよくやくけど、自分のことになると周りが見えなくなってるマイコは、それはそれで可愛いと思う。


「おい。」
「………。」


無視か、このやろ。ツーンってあからさまに顔ごと逸らすゆきみの腰に腕をかけて俺の方に寄せた。


「なによ。」
「お前ら女子大丈夫?」
「え?」
「バラバラじゃねぇ?」


俺の言葉に、ずっと気にしてたのかゆきみの瞳が潤んだ。困ったように俺を見つめて小さく呟いたんだ。


「いっちゃんもそう見える?」
「まぁ。」
「わたし朝海もマイコもね大好きなの。ずっと友達でいたいって思ってるの。…でも朝海ともうまく喋れてないし、壱馬の態度に朝海とマイコもなんとなく喋ってなくて…。どうしたらいいの…。」


膝に顔を埋めるゆきみの頭をそっと撫でた。目の前では陸がこの場を盛り上げようって怖い話を披露していて、みんな聞いてのか聞いてねぇのか正直わかんねぇ。慎はマイコにつきっきりで壱馬は朝海。


「そもそも壱馬ってなんで朝海?」
「わかんないよ。壱馬の気持ちなんて…。」


ほんのちょっとゆきみが声を荒げたら、ゆきみの左側にいた壱馬がチラリとゆきみを見た。


「ん、ゆきみ?」
「あ、なんでもないよ。」
「呼んだよね?俺のこと。」
「違くて。ほんとなんでもないから。」
「なんだよ?言ってよ?」


困った顔で俺に助けを求めるゆきみに「朝海となにかあったの?」仕方ねぇから俺がそう聞いた。でも次の瞬間、「ごめん私御トイレ!」…立ち上がったのはマイコで。


「わたし一緒に行く!?」


ゆきみの言葉に泣きそうな顔で首を横に振った。


「うううん大丈夫、ごめんね。」


誰に謝ってんのかマイコの言葉にこっちまで切なくなるなんて。



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