平和主義

【said 陸】

キャンプ初日から俺達は最悪だった。大学では思いっきり仲がいいと思っていたのに、これ程までにバラバラになるなんて思ってもみなかった。朝海の顔も、ゆきみの顔も見るのが辛いなんて…。夜飯もバラバラで、個々で自由時間みたいになって、これじゃだめだ!って思ってるけど、みんなになにをどう言えばいいのか分からなくて。時計の針だけが着々と進んでいく中、同室のケンタが深く溜息をついた後立ち上がる。


「陸あのさ、ちょっと一つになろうや?」
「え?一つに?」
「そ。俺らせっかくのキャンプなのに、これじゃだめだよね?」
「いや俺もそう思ってて。」


素直にそう言うとケンタが柔らかく微笑んだ。それからケンタと二人で全員の部屋を回ってリビングへと誘導する。


「今夜は全員このリビングで雑魚寝にする!男も女も関係ない、全員仲間だ俺達は。いいな?」
「え、ここで?」


さも嫌そうな顔をしたゆきみは相変わらず可愛い。


「そうだ!ここでだ。」
「…はーい。」


困った様にそう言うゆきみに内心ドキドキしている訳で。


「で、ここで今からみんなで寝るってこと?」


不機嫌そうなマイコの言葉にケンタは「ぐふふふふ…。」って笑う。ちょっと嫌な予感。なんだ?


「今から百物語を始める。お前ら挫折すんなよ?」
「…百物語!?それって怖い話ってこと?」


マイコの突っ込みにぐふぐふ笑うケンタ。なるほど、これで俺達の仲を元通りにするつもりか。それならのるしかない!


「分かった、俺色々持ってるから。」
「陸はすぐそーやってのるんだから。」


マイコの言葉に思わず顔を見合わせて笑う。


「それが俺だから。」
「そーでした。」


さっきの気まずい空気がちょっと和らいだように思えた。俺もマイコも、できれば平和主義な訳で。もちろん他のみんなもそうだろうけど。ここに来て自分が物凄い焦っていたんだって、さっき朝海に言われて俺も気づいた。キャンプだからって何も変わらない。好きなもんは好きだけど、喧嘩する為に来たわけじゃないし、揉めたくもない。だったら今を楽しまなきゃって俺は思うから。


「席順はくじ引きにする。はい、一人づつ引いて?」


割り箸の先に文字が書いてあって時計回りにその順番で座ることになったんだ。



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