馬鹿と分かっていても
【said 朝海】
「馬鹿じゃん陸。」
「え?」
「馬鹿だって言ってる。」
「…なんでだよ?」
「適うわけないじゃん、北ちゃんや樹に!少なくとも陸よりかはゆきみの傍にいるんだよ、二人とも。それなのになんでそんな馬鹿みたいに挑むよのっ!?勝ち目なんてないの分かってるんでしょっ!?もうやめなよ、もうあたしっ…見てらんないっ…。」
堪えきれず涙が零れた。人前で泣くなんてかっこ悪いことしたくないのに、でも感情が抑えられない自分が心底嫌になる。自分の好きな男が、好きな女の為に尽くしているってのに報われない姿をただ見ているだけのあたしは一体なんなんだって。無言で俯いてた陸がふと顔をあげる。
「言いたいこと、それだけ?」
それからそう呟いた。これ以上涙が零れないようにって思いっきり喉の奥締めて奥歯噛み千切れそうな程ギリっと力を込める。そんなあたしに陸がまたきっぱりと言い放った。
「じゃあ朝海は諦められんの?俺に言うなら朝海こそ諦めたら?」
「陸、あんたいい加減にしないさいよ!」
マイコがあたしの前に一歩出て陸を罵った。
「朝海がどんな気持ちで言ったか分かってんの?」
「分かってるよ。けどどうしようもねぇじゃん。馬鹿だろうーが無理だろーが、好きなもんは好きなんだよ。俺だって嫌いになれるもんならなりてぇし、他の奴好きになれるもんならなりてぇよっ!それができるぐらいならこんなに苦しくねぇだろっ!!!」
陸の叫びのような祈りのような魂の声に立っているのがやっとだった。苦しいのは自分だけじゃないって。大好きな陸だって同じように苦しんでいる。あたしだってできるものなら陸以外の人を好きになりたい。
ねぇ壱馬…―――助けてよ。さっきみたいにあたしのこと、助けてよ…。
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