切ない陸の愛

【said ゆきみ】

「りっくん…。」
「ごめん、俺が側にいたのに、ほんとごめん…。」
「違うよ、りっくんのせいじゃないって、だから…。」


抱きしめないでよ、そんな切なそうな顔して。そんな風に自分のこと責めないでよ。いつだってわたしを一番に考えてくれるりっくんの優しさとか愛に気付いてないとは言えない。自分の気持ちとか、朝海の気持ちとか色んなこと考えて、りっくんの気持ちに気付かないフリをした方がいいんじゃないかって思ったから今まで避けてきたけど、それでもりっくんの愛は大きくて温かくて…―――切ない。


「ゆきみになんかあったら俺、自分を許せないよ。」
「なにもなかったから。ね？りっくん…―――。」


ぎゅうって力じゃ到底適わなくて、りっくんの香りを強烈に浴びる。ふざけて北ちゃんにギューってしたことはあっても、こんな風に何も入る隙もないくらい強く強く抱きしめられたのは…あの日以来だ。あの日の樹とここにいるりっくんがほんの少し被った。


「り、く…。もういいから…。」
「ゆきみっ…。」


頬を撫でられてりっくんと距離ができる。次の展開が容易に読めた。やだってりっくんの胸を手で押すのと同時、後ろから脇に腕を回されて誰かに抱き上げられた。誰かなんて嘘、香りと温もりで樹だって分かった。


「陸ふざけんな。ゆきみに何しようとしてんだ。」


くるりと反転した瞬間、目の前が真っ暗になった。嘘、北ちゃん。見てたの！？今のりっくんとのやり取り、見てた、の？


「ゆきみは樹のもんでもないっしょ？」
「陸のもんでもねぇし。」
「誰のものでもないよ、ゆきみは！」


北ちゃんの大声に胸がギリギリ痛い。


「わたし、シャワーしてくる。りっくん運んでくれてありがとう。」
「あっ、ゆきみ！」


―――朝海の顔は見れなかった。

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