余計な真実
「ちょっと樹、余計なこと言わないでよ、もう。」
テント張りの続きをしている樹の側、バシッとその腕を叩くと樹の視線がゆっくりとこちらに降りてくる。
「余計だったんだ、あれ。」
ボソッと小さく答える樹の視線はまだ私を捉えている。そーいう目で見ないでほしい。
「樹に期待した私が馬鹿だった。」
「今更。俺に期待なんてするマイコがほんと馬鹿。なんて言えば正解だったの?本当は慎の唇触れたんじゃねぇの?だから壱馬にバレたくねぇ…―――正解?」
「樹ってこんな意地悪だったの?」
「それはマイコ次第だろ。俺別に思ったこと口に出してるだけ。かいかぶりすぎ。別に事故みてぇなもんだし、キスぐらい誰でもできるだろ。」
「…そんな言い方。樹に告った子達が樹の文句言うのも、ちょっと分かるかも。もっと優しくしないとゆきみのこと北ちゃんから奪えないんじゃないの?」
「あいつもう俺のもん…。」
「…え?どういう、」
「樹ー!」
ケンちゃんに呼ばれて樹は私の前からいなくなった。は?どーいう意味?ゆきみって樹のもんだったの?違うよね?どー見てもあの子、北ちゃんだよね?ちょっと離れた場所でちゃっかりツーショット抑えているゆきみと北ちゃん。付き合ってるって報告すら受けてないけど、どっから見てもほっこりカップル。
「マイコ、あのさっき、ごめんね。」
聞こえた声にドキッとする。樹のせいで変に意識しちゃうじゃん、もう。振り返るとキャップを被ったまこっちゃん。
「謝らなくていいよ。もう気分は悪くない?」
樹の言う通り掠る程度だったけど、本当に一瞬だけまこっちゃんと唇が触れ合ったような気がした。キスと呼べるものではとうていないし、当たり前に違うから別になんてことないんだけど、ゆきみが声をかける寸前までが何だかスローモーションに見えて、間近でまこっちゃんの息遣いがして、肌に息がかかって…思い出すだけで熱くなる。やだ私。別に未経験な訳じゃないのに。はぁー。なんだかなぁ。
「うん。マイコのお陰でスッキリしてる。本当にありがとう。」
「もー言ったでしょ!まこっちゃんが笑ってるだけで嬉しいって。」
「それって、どーいう意味?ねぇマイコはさ、壱馬と付き合ってないよね?」
急な質問に内心うろたえる。壱馬と付き合ってません。
「なに急に。付き合ってないよ。」
「ふぅん。よかった!花火大会一緒に行こうね?」
「え、うん。」
「マイコ、可愛い…。」
ポンって一つ大きな手を頭に乗せるとまこっちゃんは機嫌良さげにコテージの中に戻って行った。残された私はポツンと一人。なんとなく胸がざわざわしているなんて。
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