1.
残暑残暑と言うけれど、日本の夏はなかなか手強い。
『う"ー、暑い〜……!』
今はお盆の長期休み、いわば社会人に許された至福のときだ。
まぁアタシは特に出かけるでもなく、帰省した実家のソファでゴロゴロ毎日を過ごしていた。
……え?寂しい女だって?じゃあかしい。
いいもん、今年は引きこもるって決めたんだもん!
「おい姉貴。」
だがそんな寂しい女に声をかけてきたのは、8つも歳の離れた弟サスケ。
ソファにだらしなく仰向けている姉の真上から、キリリとした目で覗いてくる。
『ん〜なぁにサスケぇ……あっ!さ、ささ先に言っとくけど、れれれ冷蔵庫のこんにゃくゼリーが激減してるのはアタシのせいじゃないからね!』
「そんなことより塗れ。痒い。」
あからさまにキョドるアタシに構うことなく、彼がその手で突き出したのは……夏の必須アイテムこと、ムヒ。
あの虫刺されにスゥ〜ッと効く、冷たくて気持ちいいやつだ。
『いや、塗れって……サスケもそろそろ一人で何でもやんなきゃ駄目だよ?傷口の消毒とか、耳掻きとか。』
「別にいいだろ、減るもんじゃないし。」
『でもほら、アタシがいないときにサスケだって困るでしょ?』
「姉貴以外にはやらせねぇよ、こんなこと。」
『いや、そうは言ったってねぇ……。』
この弟は、学校じゃファンクラブもあるほどもてはやされているのだが、家では見事この通り。
いつもアタシにベッタリなせいか、彼女の一人もいないのだから不思議なものだ。
「……いいだろ。家でくらい、甘えたって。」
『……!』
だがいつまでも渋っているアタシから、若干ふて腐れた様子で顔をそらすサスケ。
うっ……良心にズキンと来るね、サスケの子犬オーラは。心臓に悪いよ全く。
『あ〜もぅ……はいはいわかりましたっ。で、どこ蚊に刺されたの?』
「じゃあまず腕からよろしく。」
って立ち直り早いなオイ、子犬オーラはどこいった。
まぁ大体このパターンで折れるんだから、アタシもアタシでチョロいもんである。
そんなこんなでカーペットに座り込んだサスケが、ぐいっと腕の衣服を捲りあげた。
『うひゃ〜随分とまぁ刺されちゃって。そういえば、普段血を吸ってる蚊ってメスなんだってよ?』
「ふーん。そういや何か知らないけど、部活中とかも他の連中より刺されてる気がする。」
『マジでか、いやはや虫にまで及ぶイケメンパワーとは恐れ入るね。』
「全然嬉しくないけどな。つーかくすぐったいんだけど。」
『人に命令しておいてワガママ言わない!我慢我慢!』
それでも聞き分けの良いサスケは基本、塗ってる間は大人しい。
時折アタシが塗りやすいよう体を捻ってくれたりと、その性格は決して俺様なものではない。
単にアタシに構ってほしいだけの、甘えん坊さんってわけだ。
(……けどやっぱり、男の子なんだよなぁ。)
別に見る気もないのだが、視界に入ってしまうのだからしょうがない。
久しぶりに見るその二の腕は、随分たくましく成長していて。
「……姉貴、遊ぶな。」
『ぷっ……あーはいはい、ごめんごめん。』
その皮膚越しに筋肉をグリグリしていれば、さすがにお咎めを喰らってしまった。
ん〜、だってサスケ可愛いんだもん。ジトッとした目で見てきちゃって。
『はいはい!んもう、いつまでもそんな目で見ないでって、ほら終わったよ。お次はどこ?』
「……じゃあ次、こっち。」
そうして何をするのかと思ったら、今度はその足を広げて座り込んだサスケ。
……と、次なるターゲットの虫刺されは、何とその股(もも)の裏側。
ズボンの裾を目一杯捲り上げて、ようやく見える位置にあった。
『そ、そこはさすがに自分で塗ったら……?』
「嫌。めんどいから全部姉貴でやれよ。」
う〜ん、にしたって際どすぎないかいサスケくん。
だが一向にやる気のないサスケは、股(また)を開いたままアタシを催促するばかり。
「ほら、早く。」
『そ、それじゃあ……し、失礼しまーす…』
「何だよそれ、勝手に入ってくればいいだろ。」
いやいや、そうは言ったってねぇ……位置が位置なだけに、その股の間にも慎重にそろりと手をつくアタシ。
前のめり気味にお邪魔すれば、慣れない角度から恐る恐る指を這わせた。
(……!な、何かサスケからいい匂いする……?)
誘われるように顔をあげれば、自然と目の前にはサスケの胸板が現れる。
……Tシャツ越しに見るその体は、細いんだけど肉の付いた、成人男性のそれだった。
―――ドクンッ……、
(え、何これヤダ……な、なんでアタシこんなドキドキしてるの……!?)
でもサスケったら、いつの間にこんなモデル体型に成長しちゃったんだろう。
あわよくば、その胸板にダイブしてしまいたい……って駄目駄目駄目駄目!姉弟としてそれは駄目!
そんな危うい思考を逃避すべく下を向くが、今度はその足の付け根をドストライクで見てしまい………
―――ボッ……!!
アタシの顔が火を吹いた。
「……おい、姉貴。」
『!?え、あ、ふぁい!?』
「アンタ、さっきっからどこ見てんだよ。」
アタシがハッと我に帰ってみれば……まるでケダモノでも見るかのような、蔑みの目と目が合った。
……え、待ってもしかして今の全部見られてた?当然見てたんだよねサスケくん?
「アンタ今、エロいこと考えてたろ。」
『かっ……!かかか考えてないもん!平常心だもん!』
「嘘。そう言って目が滅茶苦茶泳いでるし。」
『こ、これは目の体操してるだけっ!眼球グルグル体操!』
「初耳だけどその体操。まぁけど、オレもおあいこだから別にいいけど。」
『へ……?そ、それってどういう………』
するといきなりムヒを握る手をガシッと掴まれ、ポロリと手からこぼれ落ちる。
アタシが『あっ、』と声をあげるが、更にぐいっとその腕に引かれてしまい。
「さっき姉貴、前屈みだっただろ?そんとき見えた。」
『み、見えた……?』
「ブラまで丸見え。ごちそーさま。」
―――そうして最後には、耳たぶをペロリ。
『アッ……!』と今度は上ずった声が出てしまい、アタシは咄嗟に口元を覆う。
だがしかしその恥ずかしい声も、ばっちり聞かれていたようで。
もはや姉に向けるものではない、下心満載の目でニヤつく視線。
(……え、ちょっと何これおかしいおかしい……!)
このままいくとアレだ、これは禁断の姉弟愛とかいうあまり衛生的にも教育的にも非常によろしくない展開じゃあ………
「二人とも、そんなところで何をしているんです?」
『!!』
と、そこでナイスタイミングな登場をしたのは二十歳の弟うちはイタチ。
アタシに似た要素がこれっぽっちも無い、出来すぎた自慢の弟である。
助かったとばかりにサスケの下から脱出すれば、アタシはたまらず彼にすがり付いた。
『い、いたたたイタチ良いところに!!』
「?どうかしましたか姉さん、体中すごい汗だくですよ。」
『あ、あのあのあのね、非常に言いずらいんだけども……サスケがね、アタシにね、その………』
「……サスケ、姉さんに何かしたのか?」
「別に。ただ虫刺されで薬塗ってもらってただけ。」
『いや“だけ”じゃないでしょ“だけ”じゃあ!』
「あぁ、それなら姉さんにも付いてますよ。」
『え……いやアタシはどこも刺されてないって、』
「刺されてますよ、ちゃんと鏡で確認してください。」
っていうか、今重要なのはそっちじゃないんだけど……と言ったところで、イタチもイタチでなかなか聞かない。
さすがに気になったアタシが部屋の姿見鏡の前まで行けば、くるりと一周回ってみる。
……うん、やっぱりどこも刺されてない。
というよりどこも痒くないのだ。
『ねぇちょっとイタチぃ、やっぱりどこも刺されてない、って、ひゃ……にぃ……!?』
―――するりと途端に腹部から、肌を這うような異物感。
そうして背後からアタシを羽交い締めたイタチの手が、そのままアタシの下半身に伸び。
……アタシのホットパンツを、腰下辺りまでずり下げた。
「ほら、ココ。」
『は……』
「昨日付けておきましたから。」
……と、ちょうど骨盤よりやや下寄りなそこには、確かに赤い斑点のようなものが。
更には汗で張り付いた衣服をヌルリと持ち上げられ、さっきのと似通った赤い印があちらこちらにお目見えする……ってオイちょっと待て。
「昨晩夜這いしたついでに、たくさん付けておきました。」
『…………ワッツ?』
「ちゃんと姉さんの気を遣って“見えないところ”にシておきましたから、これなら外出先でも安心です。」
「良かったですね、姉さん……?」と、鏡越しから首を傾け、極上のスマイルを送り込んでくるイタチ。
ちょwwwおまww
いや、笑い事じゃないんだけども!笑い事じゃないんだけども!
害虫にご用心!『そ、そそそそうだ!これは夢だ夢に違いない!ああああの可愛い弟たちがこんな悪さするわけが、』
「それにつけてもイタチ、一人だけ夜這いはズルいぞ。オレも混ぜろ。」
「ふっ…許せサスケ、また今度だ。お前に3Pはまだ早い。」
『…………。』
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