暁家長編 | ナノ
2.














ようやく話のわかる人物を前に、安心したのもつかの間だ。






蠍「テメーには何の力がある?」

『へ……?』






いや唐突すぎるでしょ、何さ力って。

一応ダイニングみたいなところに通されたアタシは、今まで出会った家の方々と合間見えた状態でキョトンとした。






『えーっと、力っていうのはその……何の?』

蠍「決まってる。ヘナモンの力だ。」

『へな?』






何だそれ、何だその気の抜けるような名前。

すると目の前に座る赤砂って人は、おもむろに腕を交差させると己の耳をつまんでみせた。






ぼんっ、

すると目の前には、カタカタ動く木彫りの人形たち。






『うわぁ、すごい!何です今の、手品ですか?』

蠍「馬鹿言え。これがヘナモンの力だ。」

『だからそのヘナヘナって何?ってあれ、ヘロヘロ?いやヘラヘラ?』

蠍「……馬鹿にしてるのか、小娘。」






早くもアタシへの態度が煩雑になり、少なからず苛立っている様子の家主さん。

するとそんなアタシたちに割って入るように、あのイタチさんが進み出る。



そうして無言でその腕をクロスさせ両耳をつまめば……舌をべっと突き出した。






ぼぼぼんっ、

するとどうだろう、彼の周りには三匹の子ぶたならぬ三匹のカラスが。



……ていうか今の何?最後の舌を突き出す動作。笑えるんですけど!






蠍「つまりはこういうことだ。ほらやってみろ。」






え、まさか今の馬鹿っぽい動作をやれとおっしゃるんですかあなたは。

あまりにもアタシが躊躇うので、その後には青い肌の人、デイちゃんもそれぞれお披露目してくれた。



青い人からは生きた水が、デイちゃんからは動く粘土が。






……隠し芸大会ですかお宅らは。パーティーの出し物に最適だなまったく。






蠍「……いい加減にしろよ小娘。オレは待つのが嫌いなんだ。ここまで焦らしといてろくな力もなかったら、」

『いやだから!アタシにはそんな大道芸みたいなことできませんってば!』

蠍「はぁ?術も使えねぇヘナモンなんて聞いたこと、」

『だからぁ!アタシはそのヘナモンってのじゃないの!どっからどう見たって普通の人間の女の子でしょ!』






するとそこでようやく全てを理解したのか、家主さんはその目をクワッと見開いた。






蠍「……テメー、今なんて…人間だと……!?」

『そ、そうよ、当たり前でしょ?逆に人間じゃなかったら何なのよ?』

蠍「……!誰だ、こんな人間を家で引き取ろうなんて言い出した輩は!?」

鼬「最終的に決めたのはあなたですよサソリさん。」

蠍「普通この家に来ようってんならヘナモンだと思うじゃねぇか!」

鮫「しかし、決まったことは仕方ないでしょう。もはや彼女には、ヘナモンの力も一通り見せてしまいましたし。今さら外の世界に放り出すことも出来ないかと。」

蠍「ぐっ……、」

『ねぇねぇそれで?そのヘナモンって一体何なのよ?』

鮫「ヘナモンとは、変化するもののことを総じて呼んでいる言葉です。私たちヘナモンは、人間とはまったく別の生き物故……このような、民家からは隔離されたところで暮らしているのです。」

『へぇ〜、そんな妙チクリんなものがこの世にねぇ……。』






アタシが納得していれば、途端に突っかかってくる赤砂のサソリさん。






蠍「ふざけるな、オレはこんな得体の知れねぇ人間と一つ屋根の下で暮らそうなんざ耐えられねぇ。」

『ちょ、何よ!アタシだって来たくて来た訳じゃないですよーだ!』

蠍「じゃあとっとと荷物まとめて出ていけ!」

『無理よ、アタシの荷物は明日にならないとここには届かないもの!』

蠍「とにかく駄目なものは駄目だ、オレは人間が大嫌いなんだ。その顔見てるだけでも虫酸が走る。」

『こっちだって願い下げよ!こんな化け物だらけの家!明日になったらこっちから出てってやるんだから!』

鮫「言い争うのもいいですがお二人さん、そろそろ御夕食の心配をした方がよろしいかと。」






息をもつかせぬデッドヒートに、平然と口を挟む青い人。






蠍「何言ってんだ、いつも通りテメーが作ればいいだろうが鬼鮫。」

鮫「そうしたいのは山々なんですがねぇ。なにぶんお給金をもらえない立場としては、どうしても無理な相談で。」

蠍「何だと?」






眉間にシワを寄せたサソリさんは、もはやアタシのことは眼中にないようで。

標的をあっさり変えれば、今度は鬼鮫さんとやらに詰め寄る。






蠍「どういうことだ。……まさか角都の奴、」

鮫「はい、少なくとも今月分はストップのようで。」

蠍「あのドケチジジイ……!」

鮫「つきましては、ここは新たな人材のnameさんに、御夕食の準備を任せてはいかがかと。」

『はぁ!?ちょ、何を勝手に、』

鮫「せめて一晩はここに厄介になるのでしょう?それならば一宿一飯の恩義として、食事の一つや二つ作るのが当然でしょう。」

『むむむ……!』

蠍「ふざけるな、誰がこんな人間の作る怪しい飯を食うか。」

鮫「ですが私は働きませんよ、労働者の一特権として、ここは貫き通させていただきます。」






そう言って部屋のすみの壁によっかかり、頑なに動こうとしなくなった青い人。



……自然とアタシに集まる視線。






泥「name〜!デイちゃんお腹空いたぁ〜!」

鼬「キャベツは大盛りで頼む、name。」

『…っ!!あーもうわかりましたよ!!作ればいいんでしょ作れば!!』
























一宿一飯の恩義

(こんなワケわかんない家に、恩義もクソもあるかちくしょう!)


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