1.
はじめまして。firstname、中学二年生です。
アタシの両親は考古学者で、ふたりは次なる目的地、アフリカへと旅立ったところ。
一方、日本に残されたアタシは、今日から父さんの知り合いのお家“暁家”という一家にお世話になりま〜す!
というわけでイエイ!希望を胸に、いざいってきま〜す!
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『でかー……庭?いや森でしょ……。』
アタシは古風な家門の前で、それを仰ぎ見た。
“暁”と書かれた家門の向こう側には、緑が生い茂り、生き物の気配すらある。
そうしてここからでも見えるその山の頂上には、やはり古風な邸宅がそびえていた。
『やっぱり噂通り、変な家なんだなぁ。』
そう暗鬼しながらも、アタシはその一種異様な空間に足を踏み入れた。
実はこの家、出るだの何だのと悪い噂が絶えないことで、この辺りではちょっとした有名スポットらしい。
途中で道を訪ねた際にも、何かと挙動不審な態度をとられたり、不審者を見るような眼差しを向けられたものだ。大丈夫かオイ。
『……何あれ。アロエ?』
一応道という道はあったのでそれを頼りに進んでいれば、道の途中で不自然な植物に遭遇。
しかも変な、赤い雲模様?のマントまで身につけている。
恐る恐る近づき背伸びして、その割れ目を覗き込むと………
……やはりというか、顔があった。シュールすぎる。
『ぎぃやあああ!!』
白「うるさいなぁ、きみ誰?」
黒「コンナトコロニ人間カ、ウマソウナ女ダ。」
アタシが尻餅をつけば口を利いたよこのアロエ!!
『なになにコイツ、初対面でうまそうって、ひっ人喰い植物……!?』
白「ねぇねぇそこの君、僕って色白?」
黒「ソンナコトヨリ腹ガ減ッタ。丁度良イカラオ前喰ワセロ。」
『ぎゃああぁやっぱり喰われるみたいそんなの嫌ぁあああ!!』
アタシはもう一目散に駆け出した。
そりゃそうだ。人喰い植物の対処法なんて知らないのだから。
だがアタシの全力疾走にも余裕でついてくるハーフ&ハーフ。
白「ねぇきみ待ってよ、僕って色白?」
『いえいえよく見て!あなた半分腹黒ですよ!』
黒「ソノ柔ラカソウナ太股ヲシャブラセロ。」
『いやあああ来ないでええ!!』
何か思った以上に足早いし!足というか半分地面に埋まった状態で追いかけてきたよアレ!?
と、正面に何やらカラスと戯れている物騒な人間を発見。いやいやこの際なんでもいい。
追いかけられるアタシがとれる行動は、その名も知らない人物の後ろに隠れることだけ。
『ひぃいいカラス使いさんお助けを〜!!』
「!」
すかさず背後にしがみつけば、ようやくアタシはぎょっとした。
ちょ、この人着てるのアロエと同じのじゃん!もしかしなくてもあいつの仲間なんじゃ……!
鼬「……こんなところで何をしている、ゼツ。」
黒「何ダ、イタチカ。ソノ後ロノ女ヲ寄越セ。今日ノ晩飯ニスル。」
鼬「それは出来ない。この娘は、うちの大事な客人だからな。」
『え?ってことはあなた……まさか暁家の人?』
鼬「お前の話は既に聞いている。ということだ黒ゼツ、お引き取り願おう。」
黒「チッ……」
そんな舌打ちこそ聞こえたが、どうやら聞き入れてくれるだけの頭はあるらしい。
ゼツと呼ばれた生き物は、地面に埋まるようにして去っていった……どうなってんのアレ、モグラの進化系?地底人?
『あ!そんなことより見ず知らずのカラス人間さん、ありがとうございます!助かりました!』
鼬「いや、いい。オレはうちはイタチだ。」
『firstnameです、イタチさんはこのお家のご長男か何かですか?』
鼬「いや。暁家とは言っても、全員が兄弟や家族じゃないんだ。オレは大学に通うのに、下宿先としてここの家主にご厄介になっている。」
『へぇ、そうですか……。』
話してみれば案外普通の人だ、うちはイタチさん。
アタシは彼の案内のもと、ようやく山の頂上にある邸宅に辿り着いたのだった。
『へー、近くで見るとこれまた立派なお屋敷ですねぇ。』
鼬「……ム、戸口が開かない。」
『あぁ大丈夫ですよ、こういうのは。』
アタシが率先して開けようと試みるが、なかなかつっかえて思うようにいかない。
『おっかしいなぁ。えい、てやっ!せい!』
そんな掛け声のもと、力を込めた打撃技を繰り出していれば。
ガタガタッ、バカリ
……反対側のほうから勝手に戸が開いた。いや取れた。
鮫「……何ですかイタチさん、この生娘臭いガキは。」
『き……!』
鼬「firstnameだ。話に聞いているだろう、例のうちで引き取る娘だ。」
鮫「ほう、これが……。」
『ちょ…っ!人を品定めするような目で見ないでください!ていうか、き、生娘って……!!ワイセツ罪で逮捕しますよ!!』
鮫「おやおや何とも威勢のいい。嫌いじゃありませんがね、そういう方は。」
何だか青い肌のその人は、クツクツと感じの悪い笑みを漏らしている。
な、何なのこの嫌味な感じ!せっかくイタチさんみたいないい人がいて安心できると思ってたのに!
鮫「まぁ中へどうぞ。それと引っ付き虫さん、あまりぎゃあぎゃあ騒がないでください。イタチさんのお体に触ります。」
『アタシより住人の心配かぁ!アタシこれでも客人なんだけど、って……滝ぃ!?』
鮫「家の中に滝くらいありますよ。何か問題でも?」
『どう見たって普通じゃないでしょ!?何この家、どういう仕組みになってるの!?』
「デイちゃんキ〜ック!」
『ぐへぇ!!』
パニクるアタシの後頭部を思いきり蹴り下してきた小さな影が一つ。
3歳児くらいのその子にあっさりKOされたアタシは、顔面を激しく廊下に叩きつけた。
泥「はは、デイちゃんの勝ちぃー!うん!」
『痛ったぁ……!!何なのボクはいきなりぃ!?』
泥「デイちゃんはねぇ、赤砂の旦那の息子なんだぞ!だからとっても偉いんだ、うん!」
『意味がわからない!!』
泥「今日からお前はオイラのしもべだからな!ほら下僕!オイラとお馬さんごっこしろ、うん!」
『何このベッタベタに甘やかされた典型的お坊っちゃんはぁ!?』
鼬「すまないな。なにぶん家主の子どもなので、こちらもあまり手出しできないんだ。」
『だからって教育を放棄するのはちょっと違うでしょうが!ってイタタタ!!髪の毛引っ張んないでよ!!』
泥「デイちゃんと遊べよ下僕、うん!」
アタシに肩車するようにしがみつき、髪の毛やら顔面やらをしっちゃかめっちゃかしてくるその子。
もうヤダ、おうち帰りたい……!
「デイダラ、その女から離れろ。」
『!え……』
だがまさに鶴の一声とはこのことで、素直にアタシから降りればタタタとその人物に駆け寄るデイちゃん。
腰の曲がったその人はといえば、鋭い眼光でアタシを睨んでいる。
……ていうか、ここまで会う人ことごとく例の雲模様の入ったマント着てるんだけど!どうなってるのこの家!?
蠍「貴様がfirstnameか。」
『ひゃ!は、はい!あなたは……』
蠍「この家の事実上の主、赤砂のサソリだ。firstname、歓迎する。来い。」
な……なぁんだ。見た目に反して案外あっさりと受け入れてくれた様子。
アタシはホッと胸を撫で下ろすと、のそのそと引きずるように歩くその人の後をついていった。
変なモンだらけ、(にしてもあのマント、ペアルックどころの話じゃないでしょ、気になりすぎる……。)
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