11.
蠍「またテメーは懲りずに厄介事持ち込む気か?絶対に駄目だ。」
『そりゃあそうでしょうね!こーんな変なモンだらけの家、アタシだって友達も呼べませんよ!』
蠍「変なモンじゃねぇ、ヘナモンだ。」
『どうでもいいけど、もうクラスで家庭訪問受けてないの、アタシ一人だけなんです!』
皆が顔を会わせる夕食のダイニングで、アタシは正直に白状する。
そう、この時期避けては通れないのがこの家庭訪問だ。
『……ていうかサソリさん、そんな怪訝な顔するようですけど。アタシだって頑張って言い訳して、引き延ばしての今なんですからね!普通の人がこんなとこ来たら、無事に帰ってこれる保証はないとか、』
鼬「name、その言い方はかえって怪しまれるぞ。」
蠍「知るか。この神聖なるヘナモンが住まう土地に、これ以上外部の人間を踏み入れさせてたまるか。」
鮫「ですが、ただでさえこの家は世間から白い目で見られていますし。その家庭訪問を断ってしまえば、更なる噂が噂を呼び……最悪警察にまで話が飛躍して、我々ヘナモンはこの住み慣れた土地を立ち退くことになるやもしれませんよ?」
蠍「……何…?」
飛「なぁなぁベチャポンテン!先生って何だよ、チ○コついてんのか?」
『小南先生は女の先生です!!』
ガシャアアアン!!
と、そこで音のするほうを皆一斉に振り返れば、遅れて現れたペインさんが突っ立っている。
……何か卑弥呼が持ってそうな、銅鏡を床に盛大に散らばらせていた。
痛「……人間が、来る……しかも女、だ、と……!ぐふっ、持病が……、」
『ちょ!っとペインさん、また鼻血!?ほらポケットティッシュなら大量にあるから、』
鼬「あぁ、それでこの前路上で配っているティッシュを強奪していたのか。」
『イタチさん余計な情報吐露しないっ!ほらペインさん、これでいつでも鼻血出し放題ですよ!』
痛「ぐっ、すまないな、nameとやら……ぐばぁ!」
『あーもうまた盛大に……!ペインさんしっかり!深呼吸深呼吸、』
泥「あーずるいname〜!オイラもお医者さんごっこする〜!」
『ごっこじゃないから!デイちゃんはあっち行って、鏡の破片で怪我したら大変、』
飛「ゲハハハハァ!お、血のにおいがプンプンすんな!よっしゃ儀式を始めるぜぇ、って痛あああ!!何か踏んだ足痛ってぇええ!!」
『言った側から何してるんですかあなたは!!余計な仕事増やさないでよ、手当てするのアタシなんだから!ていうか裸足!!ほら靴下履いて!!』
蠍「チッ、背に腹は変えられねぇか……いいだろう。来るなら来てみろ、小南先生とやら。」
『って、いつの間にか話完結してるし!!』
何この人、このカオスな状態で結論出しちゃったよ、変にノリ気になってるみたいだし……、
あーもう、どうにでもなれ!アタシ知〜らない!
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紙「ごめんなさいね、無理を言ってしまったようで。」
『いえいえ、そんな……こちらこそすいません、今日まで随分引き延ばしてくださって、』
紙「いいのよそんなこと。でもよかったわ、家主さんの許可が降りたみたいで。」
そうして次の日、早くも先生を引き連れ森をさ迷う。
あぁ、森というか、庭ね。この暁家の。
紙「それにしても立派なお庭ね。何だか熊にでも鉢合わせしそうだわ。」
『あはは、熊だなんて……そんな可愛い生き物いませんよ!』
紙「それでもここ、夜になったら灯りも無いし真っ暗でしょ?オバケなんて出たら大変よ。」
『いやいや、さすがに中学生にもなってオバケなんて……、』
と、そこまで言いかけたアタシはピシリと固まる。
……何故なら視界に映る小南先生の数メートル先に、見覚えのあるマントがちらついたから。
紙「……?どうしかたのfirstさん?」
『え…あーいやその、別にぃ、』
紙「でも急に固まったりなんかして。何か後ろに、」
『あー!!いやいや何でもありません!!それより先生!!あんなところに綺麗な花が!!』
紙「あら、ほんとね。可愛いお花。」
そう言ってアタシが適当に指した花を、さも愛しそうに眺める先生……いやはや、見目麗しゅうございます。
って、そうじゃなくてぇ!!
(よ、妖怪人間ゼツ来たーーー!!)
アタシが再度背後を確認すれば……ちょ、何かさっきよりも近づいてきてんだけどあの電柱!
ていうかあのマント、保護色でも何でもないからね、この森で果てしなく目・立・つ!!
(いや、それにしても、やたらこっちに向けてロックオンされてる気が……って、ハッ!)
ま、まさかあの人食植物、小南先生を狙って……!
そ、それだけは回避せねば!
がしっ!
『せ、せせせ先生!』
紙「あら、今度は何かしら?手なんか握ったりして。」
『あたあたアタシ!何があっても先生のこと守りますから!さぁ早く行きましょう!』
紙「まぁ、随分頼もしいこと言ってくれるのね。先生firstさんに惚れちゃいそう。」
アタシの心境も露知らず、嬉しそうにニッコリ微笑む先生に、ズキュウウン!
何て可愛いこと言うんだこの人は……!
そして植物人間ゼツ、消え去れぃ!!
何とかお経のようにそれだけを唱えれていれば、ようやく山の頂上へとたどり着く。
ふぅ、第一関門、無事突破……!
紙「ここが暁家?」
『は、はい!』
紙「家門から随分遠いところにあるのね、15分はかかったんじゃない?これじゃあ毎日大変ねぇfirstさんも。」
横で感心してるけど先生、本当に大変なのはそこじゃないんですよソコじゃあ!
本当の地獄はこの玄関の向こう側に……ってあれ、また何かこの戸口開かないんですけど!
紙「firstさん大丈夫?先生も手を貸しましょうか?」
『いえ!か弱い女性の手をわずらわせるわけにはいきませんから!』
紙「まぁ素敵。きっと将来いいお婿さんになるわねfirstさんは。」
『褒めてるとこ悪いんですけど、どっちかって言うとお嫁さんがいいです先生!』
そうこうしていれば、ガタガタッバカリ。
反対側から戸が外され、わきに退かれる。
……またいつかのパターンかよ勘弁して。
『……ってあれ?ペインさん?』
紙「あら、この家の御子息さん?」
『え、あ、まぁそんな感じで、』
紙「はじめまして、小南と申します。今日はfirstさんの家庭訪問に参りました。どうぞお気遣いなく。」
丁寧にお辞儀して挨拶する先生、一方のアタシは予想外だった。
いやはや、この人てっきり引きこもりしてるのかと思ったのに。
終始無言で突っ立っているだけのペインさん……そのグルグルの目ん玉に、見てるこっちは吸い込まれそうだ。
『ま、まぁペインさんがおかしいのは今に始まったことじゃないので!じゃ、じゃあ中に入りましょう!』
紙「では、失礼します。」
そう言って、再び律儀に頭を下げる小南先生を連れて。
アタシはいよいよ、今世紀最大の難関イベントへと突入した。
春の足音、痛(……!何だ、この胸の高鳴りは……、)
鮫「ただいま戻りました。先生とやらはもう来て……リーダー、また鼻血ですか。」
痛「かつて無いほどの動機、息切れ……ぐふっ鬼鮫、オレは悟りを開いたかも知れん……!」
鮫「取り敢えずそれ以上傷は開かないでくださいね。さて……では私も参戦するとしましょうか、家庭訪問とやらに。ククク……!」
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