9.
ガタリ、キイィ……
「……ん、誰だ?」
『…………。』
いや、あんたが誰だあんたが!
暁家に来て、早くも一週間。
休日だというのに雑用としてこき使わされるアタシは、普段掃除しないところも徹底してやらされていたのだが……。
『ちょっと、これって何!?また不法侵入者!?』
痛「フッ……オレはペイン。神だ。」
『神様がこんな陰気臭い部屋から出てくるかっ!何あんた、貧乏神なの!?』
鮫「何を騒いでいるんです?……おやリーダー。」
痛「鬼鮫か。瞑想960時間、今終えたところだ。早速だが精進料理を頼む。」
鮫「わかりました。ちょっと粗大ゴミさん、いつまでこんなとこ掃除してるんですか。リーダーが精進料理をご所望ですよ。」
『だからぁ!毎度アタシにたらい回すな!自分が言われたんだから自分で準備しなさいよ!』
鮫「右脇腹。」
そう唱えるや否や、鬼姑はあの動く水をフルに活用、いや悪用しだす。
『うぇ…は、あひゃひゃひゃひゃ!く、くすぐったいって、あひゃ!』
鮫「最近知りました。あなたの弱点は右脇腹です。」
『こ、このやろう…あ、いひゃひゃひゃい、』
鮫「精進料理、頼みましたよ。」
ザッパアアン、
こちょこちょの刑が終われば、重力に従って落ちる水。
アタシはそれを頭から滝のように浴びた。
〜〜…っ!ちょっと、日に日にあいつの拷問が酷くなってるんですけど!!
だけど!ここで挫けてなるものか!ええい、こんじょだ、根性!!
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いーや、しかし初耳だ。
この家にまだ住人がいたなんて。
鮫「どうでしたリーダー、今回で仙道の道は極められましたか?」
痛「いや、オレもまだまだなようだ。瞑想一日目にして、もうたくあんが恋しくなってしまってな。煩悩退散煩悩退散、」
『たくあんが恋しいって、どんだけ質素な食生活してんのあんた!?』
鮫「リーダーは言わばヘナモン道士ですから、食事も自制しているんです。あの部屋で座禅を組み煩悩を絶つのに、二週間は余裕で出てきません。」
『つまりは引きこもりか……ホントこの家ってろくな人…いや、ろくなヘナモンが住み着きませんね。』
鮫「引きこもりだなんて人聞きの悪い。毎日床に頬擦りして遊んでいるあなたよりは、よっぽど立派かと。」
『遊んどらんわ!!こちとら掃除してんのよ!?』
泥「デイちゃんキ〜ック!」
『って喰らうかそんなもん!』
アタシが華麗な身のこなしでサッと避ければ。
かわされたデイちゃんは空中でくるくる回転し、アタシ以上の華麗さで見事な着地を決める。
……何て身軽な3歳児なんだ、オリンピック選手か。
泥「も〜name!デイちゃんのキック避けちゃダメ!」
『そんなのドMな飛段さんにやってよ!』
泥「やだ!だって飛段はヘンタイなんだ、うん!この前自分でケツの穴に、」
『ギャー!!こんな小さい子に何アブノーマルなことさらけ出してんのよ!!』
飛「お〜いベチャポンテン!台所にきゅうり置いてねぇか?なるべく太いの!」
『あんたそれ何に使う気だ!!農家の人に謝れ!!』
蠍「うるせぇぞガキども……静かにしやがらねぇとブチ殺すぞ。」
すると毎回恒例のパターンで家主の登場。
……だが心なしか、そのオーラがいつも以上にどす黒い気が…。
ピンポーン、
蠍「チッ……来やがった。」
『?』
そう舌打ちして、のそのそ玄関に向かうサソリさん。
アタシも気になってそのあとを追えば。
『…あ、マスター!ご無沙汰してます!』
角「マスターじゃない、大家だ。」
そう、そこには飛段さんの一件でお世話になったマスターこと角都さんが。
どうやら大家として、今月分の家賃の回収に来たようだ。
蠍「ったく、テメーのせいでまた一人ぶん家賃増えたんだからな小娘……。」
……あ、だからこの人不機嫌なのか。納得。
アタシがそんな刺さるような視線を浴びる中、大家さんは封筒のお金を丁寧に数えていく。
角「……家主サソリ、息子デイダラ、大学生イタチ、ニート飛段、firstnameに道人ペイン…住人6名ぶん、確かに受け取った。」
『……あ、ペインさんの存在はバレてるんだ。』
鮫「そうそう角都さん、私のお給金の話なんですが、」
『……!そ、そうそう聞いてよマスター!』
角「マスターじゃない、大家だ。」
『大家さん!来月からこいつにお給金、あげてやってください!もうそのせいでアタシったら、今日までいいようにこき使われて、』
鮫「私は今このダニを養育する仕事にシフトチェンジしていますので、お給金の名義を“家政夫”から“調教師”に変えていただけないでしょうか?」
『って、何サラッと問題発言してんのこの人は!?何よ調教って、すんごい痛め付けられるイメージしか湧かないんですけど!』
痛「オレはペイン……世界に痛みを。」
『別に名前とかけなくていいからね!あんたは!』
角「……ふむ、そうか。人手が増えるのは大いに結構。では鬼鮫を“調教師”に、firstnameを“素人女子中学生”に命名しよう。」
『なんかそれ、妖しいお店の臭いがプンプンするんですけど!』
飛「ゲハハハァ!よぉ角都ぅ!あんな湿っぽいバーなんか畳んじまってよぉ!前にオレが考案したSMパブに、早く改築してくれよな!」
角「死ね。」
飛「ゲハァン!!」
そうしていつかにも見た触手パンチで飛段さんを吹き飛ばす、マスター角都。
その後彼は袖口に封筒を確保し、そそくさと帰っていってしまった。
やはりあの変態飛段さんを扱えるのはこの人だけか……。
痛「nameといったか、次は風呂を沸かしてくれ、さすがに40日間無入浴はキツい。」
『って、あんたもなに平然とアタシに物言ってんのよ!頼むならあの元家政夫に、』
ボフン、
と、叱る勢い余ってペインさんに正面から突っ込んでしまうアタシ。
『あ……』と声を漏らし、アタシが顔をあげてパチリと彼と目が合えば。
―――ジョバアアア!!
何と滝のような鼻血を、丁度よく両目にインされた。
『ぎゃあああ!!な、何なに、視界が真っ赤に……って目が、目があああ!!』
鮫「あぁ…リーダーは女人禁制の身でもありますから、不用意に女性と接触してしまうと鼻血を噴き出してしまうんです。」
『なんじゃそらぁ!!』
蠍「おい小娘、今日は木湯にしろ。庭から手頃なヒノキ拾ってぶちこんどけ……虫が入ってやがったら、テメーを血の湯に浮かべてやる。」
『シャレになんないんだけどこの状況!!ちょ、マジこれ……ええぇえ!?どうすりゃいいのアタシ!?』
泥「えんがちょ、name!えんがちょ!」
これ以上変な住人はお断り!痛「ふぅ、危なかった……だがオレは禁欲に忠実だった。煩悩退散煩悩退散、」
『ちょっと、アタシ全身血だらけなんだけど!!どうしてくれんのよ!!』
鮫「良かったじゃないですか。あなたみたいなデメキンでも女性に見られて。」
泥「わーい!えんがちょ切った、うん!」
『もーいやぁこの家!!』
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